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ゴーン氏の腐敗を許した日産の罪~「ガバナンス(統治)が働かなかった」は的外れ=吉田繁治

「ガバナンス(企業統治)が働いていなかった」は的外れ

CEOは、過半数の株をもつオーナー型CEOでない限りは、会社の所有者である株主の持ち株数の過半数で選任されたマネジャー(経営者の意味)です。

マネジャーは、マネジメントする責任を負う経営者です。マネジメントの成果が、利益です。株主に対して、会社の利益を上げ、株価をあげることが経営者(マネジャー)の責任です。外資から派遣されたCEOは、利益責任を強く負っていて、目標とする利益を上げることができないことが2年も続くと、簡単に解任されます。日本の、社内から上がった社長には、考えられないことです。

ところが、現代の経営では、株主は、個々にはわずか株しか持たない数万人数十万人から成ります。ほとんどの株主は、株を長期保有はしていません。「買った価格より高くなったとき売って利益を得る」という投機の目的で買っています。

株主の権利である、(1)取締役の人事の決定、(2)経営への関与、(1)利益目標の提示を目的して株を保有するのは、会社のM&Aを目的としたとき多数株を買ったときだけです。M&A以外での株所有は「株の値上益と配当が目的」であり、取締役の人事と経営への関与は目的とはしていません。

つまり株主の経営へ関与は、株主数が広がって増え、短期所有が増えるに比例して、「希薄化」してきたのです。株主の、経営への関与の形態を、ガバナンス(統治)とも言います。

メディアは、ゴーン氏による日産の経営に関し、「ガバナンスが働いていなかった」とコメントしていますが、多数の少数株主になっていることが多い他の上場大手でも、株主の、経営に対するガバナンスは働いてはいないのです。このコメントは当をえていません

むしろ日本の大手企業の経営では、「株式の持ち合い」などの方法で、株主からのガバナンスを受けないような経営を推進してきました。経営者は、株主総会をできる限り短時間に終わらせ、質問のないように運営することに努めてきたのです。株主総会を、上場他社と同じ日の、同じ時間に開くのは、多くの株主に出席をさせないためです。

株主によるガバナンスは希薄化している

マネーの出し手にはどの株をもつのか分からない「投資信託の増加」も、株主の経営関与の希薄化を促進しています。投資組合のヘッジファンドによる短期所有の増加も同じです。マネーの出し手(これが株主)は、どの株を持つかということに関与していない(※注:ヘッジファンドも投資信託の一種であり、特に、リスクヘッジをするファンドを言います)。

メディアはこれを「ガバナンス(会社の統治)」の問題としていますが、超多数株主になると、株主が本来持っているガバナンスの権利は蒸発し、真空化してしまいます。

民主主義の、選挙における1票の権利行使が、ごく小さなものになって、事実上は、票を多く集めた政治家と与党に従う官僚の強い権力になってることと同じです。実際、株の選挙の場とも言える、東証やNYSEの「株式市場」こそが、株主の経営関与を、希薄化させてきたのです。

このため、株主総会で、株主から選任されたという形式をとって、CEOになった経営者が、人事権と経営権を独占する傾向になっています

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