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ゴーン氏の腐敗を許した日産の罪~「ガバナンス(統治)が働かなかった」は的外れ=吉田繁治

絶対権力者になったCEO

西欧の中世では、経営者は、貴族の館の執事(召使いの長)であり、わが国では、オーナー家族が雇用する番頭でした。その執事や番頭が、株式市場の発達よる「株主の希薄化」により、経営の全権をもつCEOになったのです。

日産のCEOの「腐敗という犯罪」は、V回復を果たした「カリスマ経営者」という声望から、社内の誰も意見・進言ができない絶対権力者になったゴーン氏の、自分の権力への驕り(おごり)がもたらしたものです。

株主から見れば執事に当たるCEOの、約20年という「絶対権力」は長すぎます

長すぎる権力所有は、倫理的な自己抑制ができるごく少数の例外者を除き、「チェックを受けない行動の中に腐敗」をはらみます。

絶対とは、誰からも意見をされずチェックを受けない独裁者の意味です。中世の王権(=領主権)と同じです。

会社の利益は株主のもの。それを横領したことに…

資本主義での、会社の利益の帰属について考えます。

われわれの社会は、国民に代わって政治を行う「代議士(Representative)」を選挙で選ぶ間接民主制です。しかしその社会を環境とする法人は、民主主義ではなく資本主義です。

資本主義とは、労働より資本(マネー)を重んじる制度ということです。資本主義では、会社(法人)が、経営者(CEO)の指揮による経済活動で上げた利益は、会社の株をもつ株主のものです。労働を提供した社長、部長、社員のものではない。利益は、会社に資本金を提供した株主のものとされます。

有価証券(=株式)報告書の一番重要なところは、「利益金処分案」です。有価証券は、株のことですから、この報告書は、株の利益を計算して、会社の所有者である株主に対して示すものです。

会社が上がた利益は、株式(=資本)が上げたものとされるので、CEOは、「会計の規則」に沿って計算した利益額を示し、利益を、次年度に向かってどう処理するかの案を作り、株主の承認を得ます。これが株主総会です。役員賞与、株の配当、投資、資本の準備金にして留保することなどが、処分案です。

ゴーン氏は、この有価証券報告書で、自分の報酬を約50%少なく書いていました。これは、株主のものである利益処分を偽る犯罪です。株主に帰属すべき利益を、5年間で50億円、掠め取ったとも言えます。政治家の公金流用に匹敵する罪です。

会社の組織は、縦の階級制

民主社会には、封建時代のような身分の階級はありません。しかし民主社会の中にあっても、会社の組織は階級制です。

まず、株主が「代議士に匹敵する取締役」を選ぶ。その取締役が、代表取締役を選ぶ。代表取締役は、会社の最上位の、権限をもつ階級として業務を実行する。どういった組織を作るかは、人事権をもつ代表取締役が人を雇用して、決めます。

日本の株式会社は、官営だった国鉄(現在はJR)の部課長制をモデルにした組織を作ってきました。名称の変更が加わったのは1997年のソニーの執行役員制からです。それまでの組織と階級は、およそ以下のようなものでした。

代表取締役社長
   │
  取締役(専務、常務、取締役、監査役)
   │
  部長(営業、製造、購買、物流、経理、総務…)
   │
  課長
   │
  社員

この階級は、権限の広さ、深さによるものでした。権限とは、「◯◯◯を、個人で決定、実行できるという権利」です。

国鉄をモデルにしていた組織は権限の体系だったのです。権限の体系では、軍隊のように、下の階級の者は、上の階級からの命令に、服従しなければならない。物事を決定し、実行を命じるのは、直属の上長です。官僚制は、今も、この権限の体系です。

会社の所有者である株主が取締役(Director)を選び、その取締役が代表取締役を選ぶので、本来は、取締役会が代表取締役の上の階級に来るでしょう。しかしこれは取締役個人ではなく、取締役が集まって構成する取締役会です。このため、取締役個人は、代表取締役の下の階級になる。

実際は多くの場合、取締役は、株主が選任して派遣するのではなく、代表取締役が社員から選んで、株主総会の承認を得ています。このため、取締役の指名者は代表取締役です。

そして、代表取締役が選んだ取締役が、多数決で(ほとんどの場合、全会一致で)、代表取締役を選ぶ。これは、代表取締役が自分で自分を代表取締役に選ぶことと、事実上は同じでしょう。こうした実態から、代表取締役は、会社の帝王のような、絶対権をもつことになるのです。

絶対権をもつ、代表取締役の上の株主は、上場の大手企業では1人1票のように超多数であり株主が希薄化しているからです。

封建の絶対君主制では、三権の分立はなく、現代の中国のように、帝王(=習近平主席)の言葉と命令が、法と裁判になります。

カルロス・ゴーン氏は、V字回復の成功から、代表取締役社長として社内での絶対権を獲得していったのです。

Next: 日産が理想としたリーダシップ型経営が、いつの間にか「絶対権力経営」に…

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