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みんな医療難民に?日本人がいま知るべき「過剰な英語化」の危険性=佐藤健志

昨年8月、「クールジャパンムーブメント推進会議」は、英語を公用語とする特区を創設するとの提言を発表しました。これには特区内の公共施設での会話を英語に限ることや、本や新聞を英語のみにすることが含まれています。もし特区が実現した場合、そこで暮らす人々の生活にどんな影響があるのでしょうか?

『三橋貴明の「新」日本経済新聞』に寄稿する作家・評論家の佐藤健志さんは、今年9月の交通事故で今なお入院生活中。そんな自身の医療体験をまじえ、ユニークな視点から「行きすぎた英語化」の弊害を挙げています。

記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2015年10月20日号より
※本記事のタイトル・リード文・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

想像してみよう、もし医療現場で英語しか使えなかったら?

日本語より英語を重んじる姿勢はいびつな劣等感の表れだ

施光恒さんの著書「英語化は愚民化」(集英社新書)には、冒頭、スゴい話が出てきます。「日本国内に、英語を公用語とする戦略特区を設けてはどうか」という提案が、今や現実になされているとのこと。

日本語と英語をともに公用語とする」ではありません。「英語を公用語にする」です。私の記憶が正しければ、くだんの特区では、公共の場での日本語使用を禁止し、新聞や雑誌の類も英語で統一することになっていたはず。

ここまで極端だと、実現の可能性(ないし危険性)は、さすがに低いかも知れません。だとしても母国語である日本語より、外国語である英語を露骨に重んじる姿勢には、劣等感に基づく過剰適応願望としか形容しえないものがあるでしょう。

とにかく英語化を進めないと、グローバル化の流れに落ちこぼれ、国際社会で「負け組」になってしまうのではないかというわけです。

なるほど、海外でも似たような話があることはある。「ラストエンペラー」で知られるイタリアの映画監督、ベルナルド・ベルトルッチは、デビュー当時、「映画に関するインタビューは、イタリア語ではなくフランス語で話したい」と発言しました。自国の映画産業の状況に批判的だったベルトルッチは、フランスで起きていた「ヌーヴェルヴァーグ」(新しい波)という映画運動に憧れていたのです。

けれどもこれは、あくまで個人レベルの話。だいたい2ヶ国語、3ヶ国語を話せる人が珍しくないヨーロッパでのことですからね。

コミュニケーションが重要な医療現場では特に危険

それはさておき。私は目下、入院生活を送っています。しかるに病室で「英語特区」構想の話を思い出すと、あることが非常に気になるのですよ。

仮にこの特区が実現した場合、区内の医療機関でも英語が使われることになるのでしょうか?

これは重要な問題です。医療においては、医師・看護師と患者の間に、十分なコミュニケーションが取れていることが不可欠。医師・看護師は「患者が今、どういう状態にあるか」を熟知したうえで処置を施さねばなりません。

逆に患者は「自分が今、どういう状態にあるか」を的確に説明し、かつ「自分は今、どんな処置を受けているか」を理解して、回復に努めねばならないのです。

でないと、いかに医師の腕が良くても、あるいは医療技術のレベルが高くても、ベストの結果は出せない。このようなコミュニケーションを取るには、言語が重要な役割を果たします。

むろん基礎的なデータなら、機械による計測で得られる。体温、血圧、心拍数、心電図、血中酸素濃度などなど。血液検査、レントゲン、超音波検査、CT、MRIといった方法で、さらに詳しく調べることもできます。

しかし、痛みの程度や種類は計測できません。体調をめぐる感覚(気持ち悪くないか、など)も無理。「ハッキリした症状は出ていないものの、気になること」があるかないかもそうです。

Next: 「曖昧な感覚」を伝えられる母国語を捨て、英語化を推し進めるとどうなる?

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