原油安と生産の減少
こうした悪性のハイパーインフレが、2014年以降の原油安の状況で発生した。ハイパーインフレの更新をくい止めるためには、外貨を獲得して予算を工面し、通貨の増刷を停止するほかない。
原油はドル建てで販売される。ベネズエラ政府は、獲得したドルを国内で使うためには、国際為替市場で現地通貨のボリバルに両替しなければならない。これにより、ボリバルの需要は高まり、価値は上昇する。すると、既存の社会政策を続けながらも、通貨の増刷によるボリバルの価値低下は防ぐことができる。
原油安のもとでこうした健全な状態に移行するためには、原油を増産して、少しでも多くの外貨を稼がなければならない。しかし、そのようにはならなかった。逆に原油の産出量は大きく落ち込んだ。
この落ち込みの原因はオリノコ油田から産出される原油の性質にある。原油のほとんどが、アスファルトや重油などに精製される「超重質原油」という品質の悪い原油だ。重質原油を輸出するには、運搬しやすくするために軽質原油などを混ぜる必要がある。近年はベネズエラ国内の軽質原油や中質原油の備蓄が減少したため、重質原油を薄めるために石油から精製されるナフサを輸入していた。
しかしナフサの価格が最近上昇し、「国営石油会社(PDVSA)」は低価格の代替品として軽質原油の輸入を検討した。アルジェリアから輸入される軽質原油は、ナフサの代わりに重質原油を薄める材料として使われる。
だが、ハイパーインフレによるボリバルの価値低下により、軽質原油の輸入が不可能になったのだ。その結果、ベネズエラの原油輸出が大幅に減少することになった。これは外貨不足をもたらしたため、政府はボリバルを一層増刷し、ハイパーインフレをさらに更新させてしまった。
さらに悪いことに、外資系の石油資本を追い出し原油の産出を集中的に担っている「国営石油会社(PDVSA)」は、政府が人事権を独占し、チャベスとモドゥロの両政権の後ろ盾である軍部が役職を独占した。いわば「国営石油会社(PDVSA)」は、軍部の利権の巣窟と化した。このような政治的な人事のため、石油産業にはまったく経験のない人々によって、会社が運営されたことも、原油の産出量を大きく減少させる要因となった。
さらに、このような運営の失敗によって、設備のメンテナンスにも失敗し、設備は劣化した。
アメリカの制裁や圧力では説明がつかない
これが、ベネズエラ経済がコントロール不能のハイパーインフレと、高い失業率、そして国民の国外脱出を引き起こした原因である。
これを見ると明らかだが、ベネズエラは原油安を背景としながらも、産業の国営化と価格統制という、チャベス政権とマドゥロ政権が強行した失策によって自滅したといってよい。
ということでは、いまのようなベネズエラ経済の崩壊はアメリカによって仕掛けられたということはできない。アメリカの金融制裁や政治的な圧力が課される前に、すでに自滅する原因を内包していたといえる。