反グローバリゼーションの潮流
では、反グローバリゼーションの潮流とはなんであろうか?
すぐに思い浮かべるのは、やはり「ネオナチ」のような民族主義や、フランスの「国民戦線」のような、いまヨーロッパ全土を席巻している極右運動だ。
しかし、反グローバリゼーションの運動の裾野ははるかに広い。それは、伝統文化の復興を主張する比較的に穏健な主張から、イスラム系移民の排斥と殺害を主張し、純粋な白人国家の樹立を目指す超過激なものまで、非常に幅広いスペクトラムを持つ。
これら多くの異なった運動が共有しているのは、グローバリゼーションによって強要されたアメリカ流の市場原理と、大資本に独占された民主主義がもたらした格差と貧困の拡大、また、やはりグローバリゼーションの結果として起こった移民や難民の世界的な移動と集中などへの強い反発と抵抗である。
この反発は、市場原理と過度な民主主義の導入に反対して、伝統文化の価値観と社会秩序の擁護を主張する保守派や右派の運動、また富裕層への課税強化による所得の再配分で格差の緩和を目指す左派の運動、さらに、移民と難民の流入が伝統的な社会秩序と宗教的な価値の崩壊を招いているとして、移民排斥を主張する極右の運動など、多様な活動の潮流を形成した。
キリスト教の価値観の擁護と白人の人種的優越性を主張する白人優越主義は、こうした反グローバリゼーションの潮流のもっとも過激で突出した部分である。
いま世界は、こうした反グローバリゼーションの運動が席巻し、既存の社会秩序の維持が困難になっている状況だ。そうした危機と混乱を利用して既存の社会秩序を崩壊させ、その後に純粋なユダヤ・キリスト教の原理に基づいた理想社会の形成を狙う、トランプ政権の元主席戦略官、スティーブ・バノンの構想もこうした反グローバリゼーションの運動の一角でもある。
反グローバリゼーション運動の過激なターン
しかし他方、潜在的な白人優越主義の支持者の大多数は、超富裕層のエリートが支配する現在の格差社会に憤り、移民と難民の流入による社会の伝統的な秩序の変質に怒りながらも、これを自分ではどうすることのできないこととしてあきらめているのが現状だ。
しかし、今回のニュージーランドで起こったブレントン・タラントによるモスク銃撃事件の犯行声明に込められた強い呼びかけは、こうした潜在的な支持層の心を強く揺さぶり、ブレントン・タラントと同様のイスラム系移民の攻撃と殺戮に駆り立てる可能性がある。呼びかけに応じた人々によって、これから多くの類似した事件が引き起こされるかもしれないのだ。
ということでは今回の事件は、反グローバリゼーション運動のもっとも過激な部分が、さらに過激になる転換点を象徴する事件となったともいえる。