4月30日~5月1日開催の米FRBのFOMC(公開市場委員会)
──「相場は相場に聞け」というから、現象面に現れた趨勢を素直に直視するしかない
米国はどこから見ても「出口戦略」の最先進国になった。
2015年末から9年半ぶりにゼロ%だった政策金利を利上げ再開し、4年かけて2.5%まで引き上げることに成功した。本稿で何度も言うが、三重野元日銀総裁のような無茶なやり方はせず、時間をかけて市場を馴らしつつ少しずつ繰り返し遂行することで出口戦略に成功した。
ところで、パウエル議長は今年1月に利上げを一時停止すると表明し、FOMCの3月の会合では19年中は政策金利の据え置きが妥当だという見方を示した。
これは米景気・世界景気の下振れ懸念があった故である。したがって、中長期的に見たら「利上げ停止=株売り」ということになるのだが、世界市場もNY市場も短期目先の動きだけを追い、「利上げ停止=金融緩和継続=株買い」と動いた。事実、FRBが利上げ休止へと舵を切るとNY株価は着実に上昇し始めた。先物市場ではFRBが年内に利下げに転ずる可能性を相当に織り込んでいる。ところが、FOMCのメンバーは今年と来年に1回ずつ利上げを見込んでいる。
NY市場がFRBの利上げを全く織り込まないのは、トランプの強烈な圧力がFRBに対して効いていると見ているからであろう。事実、トランプは昨年12月株価が下落基調の中で行った利上げを「常軌を逸している」と猛烈に批判し、「パウエル議長の解任まで検討した」とした。
当のパウエル議長はFRBの独立性を最も重視すると主張するが、「トランプ氏に真正面から反論するのを避けている」(日経新聞ワシントン支局・河浪武史氏)。
この辺が法律家出身のパウエル議長と金融市場のエキスパートの前任者たちとの違いである。ジャネット・イエレン前議長は柔らかに市場を馴らしつつ大統領とも波風を立てずに進めてきたし、前々議長のドラギ氏も時には毅然とした態度をとった。ここがトランプによって送り込まれたパウエル議長が歴代のFRB議長と違っている点だ。
伝説のFRB議長と言われ、今だに「ボルカー・ルール」として登場するように、ポール・ボルカー議長などは真正面からレーガン大統領と対決し、危機的なインフレをほとんど腕力で抑えこんだ。
我々が脳裏にあるFRB議長とは、レーガン時代のポール・ボルカー、巧みな操縦で市場や政官界をも馴らし19年間も勤続したグリーンスパン元議長(★註)、学者然として毅然としていた前掲のドラギ元議長、優しく政官と市場を馴らしながら静かにFRBの意向を遂行してきたイエレン前議長の姿であった。
(★註)「グリーンスパン──何でも知っている男」(原題は「The Man who knew」(セバスチャン・マラビー著、松井浩紀訳、日本経済新聞社、2019年刊)。900頁の本だから筆者は途中で止めた。
レーガン以来の初めての中央銀行介入型大統領トランプに屈して、「独立性」を守れないかもしれないパウエルFRBへの不安があった。金融政策がトランプに完全支配されているという印象を市場に与えればFRBの方針に対する信認を傷つけるからパウエル議長は逆の方針を示さざるを得なかった、が、年明けからの方針転換はこうした弊害を除去しつつ大転換をする機会と見たに違いない。
NY市場の投機家たちやヘッジファンドは世界景気・米景気への将来の下振れ懸念やFRBの独立性などは全く無視したフリをして、「利上げ停止=金融緩和=株上昇」と敢えて短絡的に直結させて行動する、その大胆さと行動力には畏敬の念よりもむしろ呆れるというのが筆者の感じである。
しかし「相場は相場に聞け」という。現象面に現れた趨勢を素直に直視するしかない。
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