変動費型雇用の弊害
白書ではこの多様化のデメリットにも多少触れていますが、アベノミクスの下で進んだ雇用の多様化にもかかわらず、日本の生産性は全体として高まらず、安倍政権になってからむしろ1人当たりGDPが主要国の中で最低になり、いずれ韓国にまで抜かれそうなほど経済の弱体化が進んだことを分析していません。ここに最大の問題があります。
問題は、優秀な労働力の供給源は企業だという点を軽視しています。海外も含めた大学からの供給は従来と変わりません。たまたま優秀な学生を採れれば良いのですが、学生が急に技能を持った優秀な労働力になるものではありません。かつては企業内でつまりOJTで様々な能力を育て、幹部、リーダーに登用していました。幹部候補生の教育も社内で行っていました。
しかし、雇用の流動化とともに、社内教育が「無駄なコスト」になる可能性が出て、即戦力の中途採用に注力したのですが、社内教育を怠れば、数少ない特定能力を持った経験者に頼るしかなく、社内教育が後退するにつれて、その人材はますます少なくなります。
また、労働者は「いずれ部長か課長か」の夢を持たなくなり、ジョブ・セキュリティも脅かされ、雇用不安が高まるとモラルも下がります。
非正規雇用が増えると、企業の社会保険負担が軽くなる反面、低賃金で貯蓄余力がなく、家庭を持つ余裕もなく、将来の年金不安が高まり、結婚、出産も減ります。
海外のシンクタンクからは「日本型雇用」「日本的経営」の再評価論が高まりましたが、一度破壊してしまった制度はなかなか戻りません。「わが社」といえる会社へのロイヤリティが「猛烈社員」のエネルギーとなり、生産性を高めてきた面を過小評価し、形だけの「働き方(働かせ方?)改革」を進めました。
結果的に企業を富ませ、労働者を圧迫し、労働生産性を落とし、経済力も低下しました。
政府の広告塔のような「プロパガンダ白書」に意味はありません。白書までが政府に「忖度」するようになった悪しき前例と言わざるを得ません。
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『マンさんの経済あらかると』(2019年7月26日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。