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経財白書まで忖度。非正規雇用の増加、日本的経営の破壊は安倍政権の功績なのか?=斎藤満

生産性効果に疑問

白書では、人材の多様化を進めた企業の生産性が、13年から17年にかけて5%上昇したとしています。しかし、ここにはいくつかの疑問があります。

そもそもこの事例で紹介された5%の改善という数字は、必ずしも特筆するような高さではありません。年率1%といっても、前年の12年が景気後退にあって生産、そして生産性が循環的に落ちていた時期なので、その後は循環的に上昇しやすい時期でした。

そして、第二次安倍政権になる前からいわゆる「日本的経営」「日本型雇用」は崩れ、外資型の中途採用の拡大、非正規雇用化が進み、白書の言う多様化は始まっていました。

それに拍車をかけたのがアベノミクスですが、この間、マクロでみた労働生産性は1%弱の上昇と、従来よりもむしろ低下しています。これが成長率低下にもつながっています。

個々の企業では多様化で成果を挙げたところがあるとしても、日本経済全体でみると、生産性は高まらず、むしろ先進国の中では低い部類になるまで後退し、これが低成長の一因にもなっています。

合成の誤謬とも言えますが、ミクロで実現したことがマクロでは必ずしも当てはまらないという形になっています。単純に言えば、技能を持った人を引き抜けば、その企業の生産性は上がりますが、引き抜かれた企業の生産性は低下し、合わせてみればチャラ、ということです。

技能の高い優秀な労働力をどこから採ってくるかが問題で、企業間の引き抜きでは上記の通りですが、海外から採ってくれば、国内のマイナスは回避される反面、言葉の障壁、コスト高、慣習の壁など別の問題、デメリットも発生します。

旧来型でも雇用の硬直化は改善

白書では、日本型雇用では戦力外の雇用を解雇することができず、非効率となっているとしています。しかし、現実はすでに変わっています

使えないと思った労働力は閑職に追いやるか、給料の安い子会社に移し、退職・転職を促し、実際に多くはそれを感じて転職・退職しています。

私が以前働いていた金融業界でも、かつては1人の優秀な人間がそうでない10人を食べさせていると言われましたが、状況は変わりました。多くの企業で使えないと見た労働力は早めに外すようになっていて、解雇はできなくとも、それに近い形になっています。

日本型雇用とは対照的な外資系企業の参入によって、優秀な人間を外資に抜かれるようになり、社内で教育し、外国に留学した優秀な人間ほど外資に流出する事態が増え、いやでも日本企業の雇用形態に影響が出るようになりました。

その結果、日本の企業でも社内でじっくり教育するより、外部から即戦力を中途採用する企業が増えました。同時に、これが年功賃金制も破壊し、成果主義型賃金、非正規雇用へと展開します。

できる人間により多くの賃金を払う分、全体の人件費を抑えるために、非専門職は人件費の安い非正規(派遣、パートなど)を使うようになり、政府もこれを後押ししました。

Next: 海外は「日本的経営」を再評価。それでも日本は元には戻れない…

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