選挙戦が始まっています。政府はそろそろアベノミクスの失敗を認め、発想の転換をすべき時期でしょう。企業を儲けさせても家計は潤わず、経済が停滞します。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2019年7月10日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
トランプは企業よりも国民の利益重視。日本は発想の転換が必要だ
企業ばかりを優遇しすぎたアベノミクスの失敗
参議院選挙で各党が政策論議を展開しています。
その中で自民党は、あえて「政治の安定」を訴えて戦っています。アベノミクスを前面に出して戦えなくなったためです。
今やアベノミクスの失敗は多くの認めるところとなりました。財政金融政策を総動員しながら、平均成長率は実質で1%に留まり、「悪夢」の民主党政権(安倍総理の発言)時の平均をも下回りました。
失敗の本質は資源・所得の配分がバランスを失するほど法人に傾斜したことで、企業は最高益を更新し、家計が所得や資産の圧迫を余儀なくされ、消費が長期停滞しました。
足して「チャラ」ならまだしも、儲かった企業が利益を家計に還元せず、投資に十分回さず、内部留保という貯蓄を大きく増やしたために、全体が需要不足となり、成長が抑制されてしまいました。
企業を儲けさせれば、いずれ労働者、家計にもおこぼれが回るという「トリクル・ダウン」に期待し、そのために家計には厳しく、企業にやさしい政策を集中しました。
企業を肥やしても、家計は豊かにならない
財政では家計に消費税増税、社会保険料引き上げ、ゼロ金利で金利収入を奪い、円安でコスト高とし、年金にはマクロ・スライドで実質減額を図りました。
これでは消費が増えるはずがありません。
一方、企業には法人税減税を行い、非正規雇用促進で企業の社会保険料負担を軽減し、円安で輸出利益を拡大し、ゼロ金利で金利コストを抑制。安倍政権になって企業の経常利益は60%も拡大し、株価は一時約3倍に上昇しました。
しかし、企業はその利益を投資に十分回さず、人件費で労働者に還元せず、ひたすら利益準備金という「内部留保」に積み上げました。
財務省の「法人企業統計」によると、企業の「内部留保」は2013年1-3月期の285兆円から今年1-3月期には467兆円に、6年間で182兆円も増えています。
これは企業の「貯蓄」にあたり、このうち50兆円でも設備投資やせめて賃金に回していれば、年間500兆円余りのGDPは10%近く拡大していたことになります。
個人を犠牲に企業を儲けさせた結果が、企業の貯蓄増で低成長をもたらしたのです。
企業が儲けた資金を国内投資に回さない理由の1つに、国内市場が右肩下がりだから、というのがあります。
人口が減少期に入ったこともありますが、個人消費が長期的に停滞しているためでもあり、これはアベノミクスの結果でもあります。
自分で自分の首を絞めています。この点は十分な反省が必要になります。