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景気後退不安を前に、世界債務はリーマン・ショックへ導いた「ジャンク債の宴」の2倍=山崎和邦

米中対立の深層

野村総研のリチャード・クー氏は先々週、中国を訪れて3つの都市で米中関係の行方を議論する会議に出たという。

その内容をまとめて「マンデー・ミーティング・メモ」(9月17日号)に詳細を述べているのでそれを本稿で要約する。筆者の想像していたこととは違った面が書いてある。

以下、R・クー氏の要約。

中国の対米認識と現実にワシントンで起きていることの間にはかなりのギャップがある。

例えば、中国側の関係者の中にもトランプ大統領の多くは理にかなっており、実施すべきだと思っている人が多いという。ところが、中国側が交渉でそのような前向きの姿勢を見せると米国側はさらに要求を高めていくところがある。

果たしてトランプと決着させるのが良いのか、それとも数年待って、別の大統領と交渉するのが良いのか、中国ではこういうことまで含めて議論されている。中国の高官として交渉に関わってきた或る人物は「トランプ旋風は台風のようなものではないか」と語った。つまり「嵐が過ぎ去るのを待てば世界は再び正常化するだろう」という考えである。

ここで彼らが「待つ」という持久戦の考えが出てくるのには以下の背景がある。彼らが当初思ったよりもGDPは悪化していない。この点が少なくとも彼らの一時的な安心感につながっている。

次は筆者の感想であるが、今の中国は日本と違って都市化率が低い。ということは、バブルも不況も吸収する余地があるということである。日本の30~40年前の状態を考えれば、中国はまだ発展途上国であると考えた方が自然である。

北京や上海だけ見て中国を評価していてもダメであり、都市化率が非常に低い発展途上国だから吸収力が高いという点がある。この点は既報でも筆者が既述した。以上は筆者の見方である。

次にR・クーの本文に戻る。

今のワシントンの認識は、米中摩擦は一時的なものだとは思っていない

連邦議会・国務省・国防総省・米国家安全保障局(NSA)・CIAを含めたすべての機関が、今の中国は当初彼らが期待していたようなオープンな民主主義の社会に向かうのではなく、全くその逆の独裁国家に向かっており、最大限の警戒が必要であるというスタンスである。しかもその中国は南シナ海などで領土的野心を見せ、米国防総省のコンピューターのハッキングにまで成功している。

この「独裁国家中国」に対する米国の最大限の警戒スタンスは、以前の米国がナチスドイツや旧日本陸軍の台頭に対して見せた警戒感と同等なレベルになっている。その意味で中国側が「トランプ旋風は一過性の台風であり、これを数年間我慢すれば再び両国の関係は元の友好的なものに戻るだろう」と期待するのは現実的ではない。

以上は野村総研のR.クー氏の見解の要約である。

次は筆者の考えであるが、このような中国と米国との基本的認識のズレや長期的な戦略スタンスは、米国が被追尾国であり中国が追尾国であるという全く逆の立場から発せられていることであると筆者は断定したい。

米国は友好国の先進的技術は積極的に取り入れてきた。同盟国や友好国に優れた製品があればそれらを積極的に活用して納税者の負担を減らすという考えが米国にはある。もし中国が本当の意味での友好国になればファーウェイの製品を多用した可能性が高い。中国のGDP成長率は落ちてきたとはいえ、直近4~6月期の数字は前年比+6.2%であり、日本の高度成長期の数値に相当する。

そういう面から見れば、中国はいまだ発展途上国なのである。ところが中国の生産年齢人口は2010年来初頭に既に減少に転じており、総人口も2032年から減少に向かうと予想されている。中国はせいぜいあと10数年しか残されていない。

1:中国は人口動態から来る制約要因

2:中所得国の罠から制約要因

3:トランプの仕掛けた貿易戦争の重さ、中国は今、この三重苦に直面している。

中国が2015年に発表した「中国製造2025年」というプログラムは、まさに中国の生産性を官民一体で大幅向上させることで中所得国の罠から脱却しようというものである。

次からは筆者の考えである。貿易面では米中が何らかの合意に達することは可能であろう。しかし、それは一時的・表面的なものであり、習近平が中国を「永遠に政権をとり続ける主席」として独裁国家に大きく方向を変えてしまったことを背景とすれば、ここから先の両国の対立は中国が独裁国家としての方向を変えない限り、ますます米中の対立は深刻なものとなる。これは追尾国と被追尾国の違いである。

Next: 貿易戦争の影響はブーメラン現象となって、トランプ支持層の米農家へ…

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