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日韓対立、国際裁判になれば日本敗訴?まったく報道されない徴用工問題の真実=高島康司

韓国と日本の立場

実は1965年に「日韓基本条約」と「請求権協定」が締結されてからというもの、1990年代の終わりころまでの韓国政府の立場は、「個人請求権」も同時に放棄されたという解釈で一貫していた

そのためこの期間には、韓国では徴用工の損害賠償請求問題が取り上げられることはなかった。これは「個人請求権」に属する問題で、すでに放棄されているからだ。

しかし、一貫性を欠いていたのは実は日本政府であった。

日本は、日本国民が個人として被った損害を、北方領土を占領したソビエトに対して、また個人の資産が奪われた韓国や中国の個人・企業に対して損害賠償を請求する権利を保証するため、「個人請求権」までは放棄されないと主張していたのである。

1991年8月27日、参議院予算委員会で当時の柳井俊二外務省条約局長は次のように答弁した。

「(日韓請求権協定は)いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではない。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることができないという意味だ。」

ちょっと分かりにくいかもしれないが、これは「個人請求権」までは消滅していないとする答弁である。これが日本政府の長年の立場であった。

そして、日本政府が「個人請求権」を認めていることが韓国に伝わると、次第に徴用工の損害賠償を日本企業に求める訴訟が増えていった

さらに1990年代の終わりになると、韓国政府も日本政府と同様の立場に変更し、「個人請求権」は放棄されていないとした

最後のとどめ、西松建設の裁判

そして、2007年になると、日本政府を追い詰めることになる最高裁の判決が出された。それは、戦時中、西松建設に雇われていた中国人の徴用工に対する判決であった。

ちなみに日本は、1972年に中国と「日中共同宣言」で国交を正式に回復した。韓国同様、「日中共同宣言」でも「外交保護権」は放棄された。日中の政府間による損害賠償請求問題は、これで解決した。日韓関係とまったく同じ構造である。

最高裁の判決は、「日中共同声明」により国家間だけでなく個人の賠償請求権も放棄されたとの判断を示し、日中間で賠償問題は決着済みであることを確認したものだった。しかし最高裁判決は、「被害者らの苦痛は極めて大きく、西松建設を含む関係者に被害救済の努力が期待される」と付言したため、西松建設は訴訟を起こさずに解決する「即決和解」を申し出て、原告側の中国人徴用工もこれに応じた。そして西松建設は、中国人徴用工360人の強制連行を認めて謝罪し、補償金を支払うための新たな基金に2億5,000万円を拠出した。

これはどういうことかというと、最高裁は表向きは「個人請求権」は放棄されたものとしたが、実際は和解勧告を行い、損害の賠償をさせたということだ。

これは解釈が分かれるところかもしれないが、最高裁は「個人請求権」の存在を実質的に認めたとも理解することができる

パニックになった第1次安倍政権

この2007年の判決と和解勧告は、大きな衝撃を当時の第1次安倍政権にもたらした。

これから「個人請求権」に基づいた訴訟が、特に韓国を中心に相次ぐことが予想できたからである。徴用工の訴訟ラッシュとなる可能性もあった。

このような状況への対応を迫られた安倍政権は、「個人請求権」の存在を認めていたこれまでの日本政府の立場を改め、「個人請求権」も放棄されたので解決済みであるという立場に変更した

(※追記2019年11月11日:しかしいま、2018年11月14日、河野太郎元外相は日本共産党の穀田恵二議員への答弁として、1965年の日韓請求権協定によって「個人の請求権が消滅したと申し上げるわけではございません」と明言し、個人の請求権は「消滅していない」ことを正式に認めている。)
※参考:徴用工個人の請求権 外相「消滅してない」/衆院外務委 穀田議員に答弁 – しんぶん赤旗(2018年11月15日配信)

Next: 日本が敗訴する? さらに日本に不利な「国際人権規約」がある

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