さらに日本に不利な「国際人権規約」
このように、いまの徴用工の問題の背後には、「個人請求権」を長年認め、中国人徴用工の損害を実質的に賠償した日本政府の一貫しない態度がある。中国人には賠償しながらも、韓国人にはこれを拒否するということはできないだろう。
徴用工問題は、「韓国は国際法に違反している」と主張すれば解決する問題ではまったくない。国際司法裁判所のような第三者機関に訴訟を起こすと、日本が敗訴する可能性があると指摘されている。
しかし、最近になって、日本の立場をさらに不利にする事実が出てきた。むしろ国際条約に違反しているのは日本である可能性を示唆する事実だ。
それは、「国際人権規約」の存在である。「国際人権規約」とは、国連の「世界人権宣言」の内容を具体的に条約化したもので、国際人権法にかかる諸条約の中で最も基本的で包括的なものだとされている。1966年に国連総会で採択され、1976年に発効した。日本は1979年に批准している。
この条約の詳しい説明は避け、徴用工問題にかかわる部分だけを見てみよう。この条約の第2条には、次のようにある。
第2条3
この規約の各締約国は、次のことを約束する。(a) この規約において認められる権利又は自由を侵害された者が、公的資格で行動する者によりその侵害が行われた場合にも、効果的な救済措置を受けることを確保すること。
ちょっと法律用語が多いので難しく聞こえるかも知れないが、「公的資格で行動する者」、つまり政府や企業または軍隊などによって人権を侵害されたものは、きちんと救済されればならないという規定である。
この「国際人権規約」の批准後、各国の政府は戦時中などに政府が行った行為や、先住民の被害者に対する救済処置を実施した。
まずドイツでは、国に賠償するのではなく、強制動員に対する労働者への被害補償として、2000年8月にドイツ政府と6,400社のドイツ企業が「記憶・責任・未来」基金を創設して、これまでに166万人以上に対して、約44億ユーロ(約7,200億円)を賠償している。
さらに、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、アメリカでは先住民族に対する謝罪や補償が行われた。またアメリカは、レーガン政権時に、第2次大戦中に日系アメリカ人に対して行った隔離政策を謝罪し、これに対して補償した。
「国際人権規約」を徴用工問題に当てはめると…
このような「国際人権規約」の規定をいまの徴用工問題に適用するとどうなるだろうか?
日本企業や日本政府は「公的資格で行動するもの」である。とするなら、徴用工に対しては、それ相応の救済処置を実施する義務が日本にはあることになる。
これは「個人請求権」の問題が政府間の国際条約で解決されているのかいないのかとは関係がない。過去の国際条約がどうあれ、「公的資格で行動する者」により権利を侵害されたものは、救済する義務があるとした条約である。
つまりこれは、徴用工は救済されなければならないということだ。