レバノンやアルゼンチンが債務「支払い不能」に
とはいえここで疑問に思うのは、最近でもレバノンやアルゼンチンが債務の「支払い不能」となったことだ。
「2020年3月7日、レバノンのディヤーブ首相は9日に償還期限を迎える債務12億ドルをはじめとする同国の債務の支払いを停止すると発表した」。
「格付け会社が相次ぎアルゼンチン国債を『デフォルト(債務不履行)状態』に格下げした。同国政府が新型コロナウイルスを理由に一部の債務返済を延期すると一方的に発表したためだ。3月末を期限としていた債務の再編交渉は債権者団から合意を得られておらず、経済への打撃は避けられない」。
MMTを利用したい人は、両国がデフォルトしたのは外貨建て債務だと言うだろう。
ならば、レバノンやアルゼンチンはどうして自国通貨を発行し、外貨を購入して債務返済に充てなかったのだろう。
レバノンの財政赤字は拡大しているが、MMTでは問題とされないので触れない。年間インフレ率は、2015年から2019年まで−3.70%、−0.82%、+4.48%、+6.07%、+3.09%と推移、この3月は10%と高い。
仮にレバノン政府がMMTに沿って政府財政を運営していたとすれば、インフレ率が低い間に財政赤字を構わずに財政支出を続けた結果、インフレ率が高まってしまい、外貨購入のための自国通貨発行ができなくなったことになる。
一方、アルゼンチンの財政収支は2003年から2008年までは黒字で、財政赤字は2009年から加速度的に拡大を続けている。インフレ率は2017年からは+25.68%、+34.28%、+54.44%と高騰してきたが、3月は年率(過去12カ月の累積)で48.4%と過去1年間で最も低い数値だった。
ここでは財政赤字につながる財政支出がインフレ率を高めてきたという見方もできる。
そして、両国が外貨調達できないのは、信用力がないから。外貨を買えないのは、誰も両国の通貨を受け取りたくないからだ。
なぜなら、MMTのように何の裏付けもなく通貨発行されてはたまらないからだと考えられる。
「政府の財政は、家計や企業のそれとは全くの別物」だろうか?
MMTによる財政赤字の拡大は、対外的な信用力を失う
家庭や企業でも家長や社長が、MMTに沿って家庭や社内だけで通用する通貨を好きなだけ発行することができる。家庭や社内では、家長や社長の信用力でその通貨は流通する。信用力さえあれば対外的にでもそうした「疑似通貨」は通用する。
実際、私が以前に勤めていた会社では、社員への福利厚生として毎月「食事券」を支給していた。そして、それは近隣であった日本橋界隈のどの食堂、レストランでも使えたのだ。
しかし、信用力がなければ、それらは対外的には紙切れだ。つまり、MMTによる財政赤字の拡大は、対外的な信用力を失うことになるのだ。
つまり、MMTを採用した国は世界経済から弾き出され、国民は辛酸をなめ尽くす可能性があるということだ。信用力のない通貨は紙切れに等しいのだ。