現代アメリカの内乱のパターン
しかし、ターチンが注目されたのはこれだけではない。いまターチンは、近代以前に存在したようなパターンとサイクルが、近代的な工業国家である現代のアメリカにも適用可能であるかどうか研究している。研究は2010年に始まり暫定的な結果が発表され、大変に注目されている。
なかでももっとも注目された論文は、「平和研究ジャーナル」という専門紙に2010年に寄稿された「1780年から2010年までの合衆国における政治的不安定性のダイナミズム」という論文である。2017年4月には、この論文を元にして「不和の時代(Ages of Discord)」という本として刊行された。
この論文でターチンは、アメリカが独立間もない1780年から、2010年までの230年間に、暴動や騒乱などが発生するパターンがあるのかどうか研究した。すると、アメリカでは、農業国から近代的な工業国に移行した19世紀の後半からは、約50年の「社会的不安定性」のサイクルが存在していることが明らかになった。
暴動や騒乱が発生し、南北戦争のような本格的な戦争を除くと、アメリカで内乱が多発した時期がこれまで3つ存在した。1871年、1920年、1970年の3つである。
これをグラフ化したのが以下の画像だ。ぜひ見てもらいたい。
明らかにこれらの年には、社会で見られる暴力は突出していることが分かる。
社会的不安定の原因
その原因はなんだろうか?
ターチンによると、近代の工業国家は前近代の農業帝国に比べて、経済成長のスピードが極端に速いので、人口の増加とそれによって発生する労賃の低下、生活水準の低下、エリートのポストの不足などにははるかに容易に対処することができるという。
その結果、これらの要因が深刻な社会的不安定性の原因となることは、かなり緩和される。
だが、これらの要因が近代工業国家でも作用し、社会的不安定性の背景となっていることは間違いないとしている。
アラブの春におけるエジプトの例
最近、これをもっともよく象徴しているのは「アラブの春」ではないかという。
たとえば、エジプトのような国は年5%から6%の経済成長率を維持しており、決して停滞した経済ではなかった。
しかし、出生率は2.8と非常に高く、また生活水準の上昇に伴って高等教育を受ける若者の人口が大きく増大したため、経済成長による仕事の拡大が、高等教育を受けた若者の増加スピードに追いつくことができなかった。
その結果、高い教育を受けた若年層の高い失業率が慢性化した。これが、アラブの春という激しい政治運動を引き起こす直接的な背景になった。