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本当と嘘とアベノミクス。この5年で日本経済はどれだけ成長したのか?=吉田繁治

この5年で日本経済は成長したのでしょうか?成長したとすれば、それは「アベノミクスのおかげ」なのでしょうか?なぜ多くの世帯で平均所得がマイナスなのでしょうか?解説します。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)

※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2017年10月25日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

アベノミクスは国民を豊かにしたのか? データが語る本当の日本

経済の好調とは、何を言うのか?

景気がいい・悪い、経済が好調・不調と、いつも言われますが、これは何を言っているのでしょうか。

判断の元は、実質GDPの増加率です。GDPには三面等価があり、というより三面等価になるのがマクロ経済の領域のGDPの計算です。単純化して言えば、需要=所得=生産です。

商品とサービスの需要で計るGDP
=企業と世帯の所得額+減価償却費(約100兆円)
=商品とサービスの精算額

になります。

一般にGDPと言われるのは、需要面でのGDPです。企業と世帯の所得+減価償却費と、商品生産額に等しくなります。

商品は、衣食住の消費財、家電や自動車、住宅や企業設備の耐久財ですが、それに、無形の商品(医療、ホテルの宿泊、交通、通信、電力、エネルギー、財の金利、不動産の家賃など多種多様)が含まれます。

生産された商品は、買われるか、余剰分は繰り越しの在庫になるので、生産と需要は、等しくなります。需要は、所得で行われるので、需要と所得も等しくなります

借入で設備投資(需要になる)をした場合、他の人の所得から貯蓄分(消費しなかった分)を借りるので、全体の所得と需要も等しくなるのです。

一方、輸入は、海外の生産の買い(マネーでは所得の流出)ですから、GDPのマイナスの要素になります。逆の輸出は、国の生産品を海外に売って、輸出国には所得が生じますから、GDPのプラス要素です。

「実質GDP増加率」で見る過去11年間の景気

以上のようにして計算された実質GDPの増加率が、下の表です。

実質とは物価上昇分を引いたものです(インフレの逆のデフレーターという)。従って、実質GDPは、生産された商品の、数量の増減を示すことになります。所得でも、実質所得と言ったときは、物価のインフレ分を、デフレーターとしてマイナスします。

最新2017年4月-6月期(第2四半期)の、需要面での実質GDPは529兆円です(年換算:内閣府)。在庫の増減は少ないので、省略しています。

<実質GDP529兆円の内容>

民間消費301兆円、住宅建設16兆円、企業の設備投資83兆円、政府の最終需要106兆円、公共投資26兆円、輸出87兆円、輸入91兆円。

(注:交易利益を含む国内総所得では535兆円です。対外資産(1000兆円)からの、受け取り金利や配当、事業利益を含む国民総所得は、553兆円です。安倍内閣はGDPが約4.5%は大きく見えるように、この国民総所得で見るべきだと主張しています。経済の好調を言うためです。)

<実質GDPの増加率(11年間)>

2007年: 1.65%(福田内閣)
2008年:-1.09%(麻生内閣)
2009年:-5.42%(リーマン危機後:民主党政権)
2010年: 4.19%(金融危機後のリバウンド)
2011年:-0.12%(東日本大震災)
2012年: 1.50%(野田内閣 → 安倍内閣)
2013年: 2.00%(アベノミクス開始)
2014年: 0.34%(消費税増税)
2015年: 1.11%
2016年: 1.03%
2017年: 1.51%

この5年間の成長は「アベノミクスのおかげ」ではない

与党は、「民主党内閣での経済は悲惨だったが、日銀が国債を買って金利をゼロやマイナスに保つ異次元緩和を中核にするアベノミクスで、好調になった」と主張しています。

GDPが50兆円も増えたんです」という安倍首相の演説がこれでした。60%くらいの国民も、なんとなくそう思っているでしょうか。

民主党政権の時期には、08年9月(当時は麻生内閣)のときの、外発的なリーマン危機(世界金融危機に波及)がありました。このため、翌年のGDPは、マイナス5.42%という戦後最大の不景気になっています。このリーマン危機後の不況(輸出の急減)は、米国発であり、民主党政権だから起こったものではないでしょう。

2011年3月は、関東大震災に匹敵する「東日本大震災」でした。生産のサプライチェーンが壊れて、輸出が減り、年度のGDPはマイナス0.12%になっています。震災不況でした。

震災での資産(住宅、店舗、工場、道路、鉄道、公共設備)の損害は、商品生産額を計算するGDPでは、マイナスにはなりませんが、震災で失われた世帯所得が、商品購買を減らしたからです。

安倍内閣では、幸運にも復興事業の公共投資が必要になりました。これは巨額です。2011年から2016年までの5年で、26.3兆円に膨らんでいます。

大声では言われず、26.3兆円の復興国債が発行され(それを日銀が買って)、復興投資が行われています。

土木・建設需要が急増し、土木・建設の雇用が増えて、建設費も上がっています(復興庁)。小泉内閣の財政改革で、公共事業が減っていた土木・建設業は、震災特需で、利益を上げています。

GDPで言えば、2011年以降は、年平均4.3兆円で、GDP成長分の0.8%に該当します。原発事故の保証金も含まれます。

東京が本社の建設業は、震災特需に続くオリンピック特需で、潤っています(注:2019年の冬以降は、震災特需とともにオリンピック特需も消えて、不況になります)。

<実質GDP成長率と復興事業費(5%分)>

2012年:1.50% 復興事業費4.3兆円(0.8%)※野田内閣 → 安倍内閣
2013年:2.00% 復興事業費4.3兆円(0.8%)※アベノミクス開始
2014年:0.34% 復興事業費4.3兆円(0.8%)※消費税増税
2015年:1.11% 復興事業費4.3兆円(0.8%)
2016年:1.03% 復興事業費4.3兆円(0.8%)
2017年:1.51% 復興事業費4.3兆円(0.8%)

政府の復興事業によるGDPの増加(毎年約0.8%分)は、異次元緩和と成長戦略によるアベノミクスの成果ではないでしょう。土木・建設業の売上になる、26.3兆円の復興投資がなければ、2012年から2017年のGDPの合計成長は、5ポイント分、低下していたからです。

それを除けば、2012年0.7%、13年1.2%、14年-1.4%、15年0.31%、16年0.23%、17年0.71%というみすぼらしい成長です。アベノミクスによって、日本経済が成長したとは言えません

被災地以外は「景気回復の実感」がない

東北を中心とする震災地以外の県では、復興事業での政府投資は関係がないので、アベノミクスでの「景気回復(50兆円のGDP増加)の実感」がない野党が、これを指摘し、「アベノミクスでの成長はなかった」としなかったのはなぜでしょう

GDPの内容の分析をしていなかったからでしょうか。小池氏も、その発言を聞くと、GDPの内容への知識はないように思えます。このため、「皆さんには、景気回復の実感がないでしょう」とだけ主張していたのです。

実体では、アベノミクスの異次元緩和と、政府の補助金を使う森友・加計学園もその一環である成長戦略は、経済を成長させてはいません

400兆円の円が増発されて、通貨1単位の価値が下がる円安になり、輸出企業の円換算での利益を増やして、株価は1.5倍付近に上げました。

株価と地価はGDP(=商品生産)の実体経済ではなく、金融経済の領域です。株価が上がり、地価が高くなっても、GDP(=所得)は増えません

企業の株価が上がっても、企業の商品販売の利益は、増えません。ただし、増資での資金の調達金利は下がります。株主も資産額は増えます。GDPの所得は増えない。地価も同じです。

Next: 約5000万世帯で平均所得が増加せず、むしろマイナス傾向にある

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