アメリカ経済急回復の背後で起こっている事態について解説したい。いま起こっているインフレは、アメリカ社会の基底部にまだ存在している社会不安の根深さを現している。(『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』高島康司)
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アメリカ経済急回復の背後で起こっていること
アメリカの速いペースの経済回復の背後で起こっている事態について解説したい。意外な状況が見えてくる。
アジア系に対するヘイトクライムや激しい人種差別のニュースはまだ多いものの、日本にいると経済状況についての詳細は伝わってこない。
バイデン政権になってからアメリカはめざましい経済回復を実現しつつある。以下が中国、アメリカ、そして日本の成長率だ。左が2020年、右が2021年の数値だ。
2020年 2021年
中国 2.3% 8.4%
アメリカ −3.5% 6.4%
日本 −4.6% 3.3%
2020年度には主要国では唯一プラス成長を維持した中国がこの成長率であるのは不自然ではないものの、アメリカのマイナス3.5%からいきなりプラス6.4%のリバウンドはあまりに高い成長率だ。この数値が予想通りに実現すると、実に37年ぶりの高い成長になる。
これは主に次の4つの要因によってもたらされたものだ。
<米国経済「急成長」の要因>
1)巨額の経済政策
2)ウイルス接種の進展による社会活動の再開
3)相場の上昇による消費拡大
4)FRBの金融緩和策
まず(1)だが、バイデン政権は国民1人当たり15万円の直接給付を含む200兆円の経済政策を実施している。これは日本の国家予算の約2倍の規模だ。さらに、今後20年間で220兆円のインフラ建設計画が議会で審議されている。
これは史上まれに見る規模の経済政策で、アメリカのGDPの15%にも匹敵する。これはEUの7%、日本の4%の経済政策と比較しても群を抜いて大きな規模だ。これが国内の消費を後押している。
また、消費を一気に加速させることになったのは、(2)のワクチン接種の進展による行動規制の解除である。これまでロックダウンなどで押さえられてきた人々の行動が開放され、消費の拡大をさらに加速させている。
こうしたトレンドをさらに後押ししているのが、(3)の相場の上昇である。アメリカでは富裕層のみならず中間層も、株式を中心になんらかの投資を行っている。バイデン政権の経済政策によって莫大な資金が市場に流れ、これが株価の大幅の上昇をもたらした。これで利益を得た人々の消費が拡大した。
そして最後に(4)、FRBのゼロ金利を含む金融緩和政策がある。ローン金利は極端に低いので、住宅や車の売れ行きが好調だ。
始まったインフレ
こうした状況で懸念されているのが、インフレである。
米政府は3%程度のインフレになると予測していたが、米労働省が発表した2月の生産物価指数を見ると、次のようにかなりの価格上昇になっているものもある。
鉄鋼:22%
石油製品:11%
住宅:13.4%(6月の見通し)
これは相当な上昇幅だ。バイデン政権は巨額の経済政策の実施によって、ドルの供給量は増大している。これがインフレの原因であるような印象を持つかもしれない。しかし、通貨供給量の増大だけでは実際にインフレは発生しないケースがほとんどだ。2%のインフレを目標にして通貨供給量を増大させたアベノミクスがよい例だろう。2%のインフレ目標はついに実現できなかった。
インフレの昂進の原因となるのは、供給をはるかに上回る需要の存在である。需給ギャップがある状況で通貨供給量を増加させると、インフレは加速する。
いまアメリカでは、国民への直接現金給付を含む大規模な経済政策やワクチン接種による行動規制の緩和などが背景となり、これまでコロナ禍で抑制されていた消費は一気に拡大している。これが急激な需要の増大になり、かねてからの通貨供給量の増大とあいまってインフレを引き起こしている状況だ。
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