うまく行かなかった中国依存脱却
他方、中国の独占状態を恐れたアメリカ、オーストラリア、日本など各国は中国以外の供給先を開拓しようとしたが、精製に必要な技術が追いついていないことなどが障害となり、うまく行かなかった。
2012年にカリフォルニアの鉱区を開発しようとした企業は、安いレアアースを生産する中国企業との競争に負け、倒産してしまった。
この結果、各国は中国のサプライチェーンの過度な依存からまったく脱却できていない。
そのため、第4次産業革命を担う最先端の製品が、レアアースの中国のサプライチェーンなしでは製造できない状況になっているのだ。
電気自動車が典型例
その典型的な例は電気自動車(EV)だ。いま日本のみならず全世界で「EVシフト」が起こっている。
EUなどは、2040年までにガソリン車やディーゼル車の製造と販売を禁止し、完全にEVに一本化する方向だ。
EVの心臓部はモーターである。そして、モーターを駆動させるためには高性能の「永久磁石」が必要になる。これなくしては、モーターは動かない。
この「永久磁石」の製造には、「プラセオジム」「ネオジム」「サマリウム」「ガドリニウム」「テルビウム」「ジスプロシウム」などのレアアースが必要だが、なんとその98%は中国が供給している。
この状況を換言するなら、中国の供給するレアアースなしでは、EVの製造は不可能だということになる。もしEV製造の中国依存を脱却しようと思えば、現行のEVのモーターの仕様を大きく変更しなければならない。
レアアース禁輸で何が起こる?恐怖する米軍需産業
こうした状況はEVには限らない。多くの最先端技術の製品に当てはまる。
そして、この過度な中国依存をもっとも恐れているのが、アメリカの軍需産業だ。ミサイル誘導システムほか、レーザー兵器、高性能レーダー、次世代型戦闘機など、レアアースが多用されているからだ。
こうした最先端兵器が、仮想敵国である中国に依存しないと製造できないという事実は、アメリカの安全保障にとって大きな脅威であることは間違いない。早期にレアアースの自前のサプライチェーンを構築し、中国依存からの完全な脱却を目指すことだろう。
しかし、CIA系のシンクタンクで安全保障分野を専門に高度な分析を提供している「ストラトフォー」によると、これは容易ではないという。
まず、サプライチェーンの構築には順調に行っても10年から15年はかかる。だが、軍需産業のレアアースのシェアはたかだか5%程度にしか過ぎず、市場規模はあまりに小さい。
そのため、軍需産業のためだけに自前のサプライチェーンの構築に投資する企業はほとんどないのではないかと見られている。
レアアースの中国依存がこのように大きい状況で、もし中国によるレアアースを含むレアメタルの全面的な禁輸処置が発動されたらどうなるだろうか?
レアメタルやレアアースの市場価格が高騰するという経済的な影響どころではない。おそらく、アメリカの軍需産業における先端的ハイテク兵器の生産には、大きな支障が生じることだろう。生産そのものができなくなる兵器もあるはずだ。
いまバイデン政権は、中国依存のこうした大変に厳しい状況を脱却するために、1,400億ドル(1兆500億円)の巨費を投じて、レアアースの採掘と精製を行う企業を急いで育成しようとしている。
3年後を目処に、アメリカで産出され精製されたレアアースの供給を始める見込みだ。