北ヨーロッパのアイスランドで実施されていた「給与そのままの週休3日制」トライアルが、研究者曰く「圧倒的な成功」を収めたとのニュースが、日本国内でも大きな話題となっている。
報道によると、このトライアルにはアイスランドの労働人口の約1%に相当する2,500人以上の労働者が最終的には参加。労働者の勤務時間が短縮される一方で、これまでと同額の給与が支払われるという条件だったが、大多数の職場で生産性が維持されたか、向上したとのこと。多くの労働者が短時間勤務をするようになったようで、労働者からは「ストレスや燃え尽き症候群のリスクが減った」「健康やワークライフバランスが改善された」といった報告があがったという。
今後アイスランドでは、労働者の86%がこれまでと同額の給与の支払いを受けつつ時短勤務に移行、あるいはそうなる予定だという。
日本国内は「週休3日制」導入に冷めた視線
週休3日制といえば、我が国でも先日閣議決定された「骨太の方針」に「選択的週休3日制」が盛り込まれ、重点政策に位置付けられた。仕事と育児・介護との両立、あるいは兼業・スキルアップなどを後押しすることで、多様な働き方の推進に繋げたいという狙いがあるようだが、ネット上などの反応などを見ると、冷ややかな視線を送る人のほうがどうやら多いようだ。
週休3日制の話があまり盛り上がらないのは、日本においてはそれと同時に給与減が行われることが既定路線であることが、以前の報道などによってすでに広く伝わっているから、というのは言うまでもない。先行して週休3日制を導入した企業では、給与が従来のおおよそ80%に抑えられており、今後導入していく企業もそれに倣うのではというのが、大方の見方となっている。
さらに日本での週休3日制導入においては、給与減と同時に社会保険などの給付も減ることも、ここに来て周知されつつある状況だ。もっとも、給与が下がることで社会保険料の負担も減れば、受け取れる額も減るのは当たり前の話で、いっぽうで労使折半で事業主が負担していた保険料も減る形に。要は日本で導入されようとしている週休3日制とは、「働き方改革」などと労働者のための改善を装いながらも、企業への優遇策という側面が強いということが、すっかりバレてしまっているのだ。
そのためか、今回アイスランドにおける「給与そのままの週休3日制」報道に関しても、日本での「減給ありきの週休3日制」と比較する、羨望も相まった皮肉的な意見がネット上では多く見られる状況である。
大事だから2度RT。日本で週休3日にしようとするとすぐに給料減らす話が出てくるけど、給料そのままは必須。 https://t.co/ZyYm9xzueq
— 猪谷千香 (@sisiodoc) July 6, 2021
この日本という国は、週休3日で生産性が変わらないのなら、週休2日で給料変わらずにもっと労働させようと思ってしまうんだ。 https://t.co/JHvVVRCTZW
— くらげねこ (@kurageneko) July 6, 2021
日本に週休3日制を導入しても間違いなく給料は4/5になるので、ストレスは増えるだけなのでは
— Gao.zip (@gao_zip) July 6, 2021
日本人は労働時間減でもスキルアップはしない?
さらに日本における週休3日制導入に関しては、たとえ休日増で自由に使える時間が増えたとしても、制度導入の狙いとして挙げられているスキルアップなどの学びには繋がらないのでは、といった声もあがっている。
注目されているのは、リクルートが2016年~2020年の5年間を対象に行ったという、人々の働き方の変化に関する調査。それによると、2020年はコロナ禍による在宅勤務で労働時間は減少したものの、その分が自発的な学びに時間が回されたかというとそうではなかったそうで、また「自己啓発」の時間も減少。むしろ会社での労働時間が長い人ほど、社外での学びに積極的だという傾向が出たそうだ。世の中、意識高い系ばかりでは無いわけで、コロナ禍にしろ週休3日制導入にしろ、休みが増えたからといって、それで皆がスキルアップの勉強に勤しむといったことは、考えにくいというのだ。
社会人の学びということで言えば、最近では大企業の間で「リスキリング」、いわゆる学び直しに取り組む企業が増加しているという。キヤノンでは、工場従業員を含む1,500人にクラウドや人工知能(AI)の研修を実施しているなど、デジタル関連の知識を学び直すというのがトレンドのようだが、それらの多くは就業時間を使って行われている模様。講師の用意などそういった教育環境を整えるための費用面の問題などを考えても、この手の学び直しの機会に恵まれるのは、やはり大企業に勤める人間に限られてくるのが実情だ。
否応なしの給与減にくわえて、休んだ分の時間を学びに回さなければ、生活が立ち行かなくなるような状況も考えられるという日本の週休3日制。ハッピーな報告が続々とあがるアイスランドの「給与そのままの週休3日制」が、まるでおとぎの国の話のように見えるのも、無理もないところだろうか。
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