昨年、コロナで世界の景気が同時に大きく落ち込みましたが、いち早くコロナ前を回復した米国と、依然として低迷を続ける日本経済との大きな差は、個人消費の差にあります。日本で個人消費を刺激する場合、現在の日本が置かれた立場からすると、コロナの感染防止を進めつつ、並行して消費購買力を高める二正面作戦が必要です。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2021年9月10日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
株式市場は「選挙相場」の様相
これから自民党総裁選、そして衆議院選挙に向かいます。
これに期待して、すでに株式市場は「選挙相場」の様相を呈しています。選挙となればカネが落ちることと、また選挙公約で景気対策が期待されるためです。
その際、今の日本経済を活性化するには、個人消費の刺激が有効と考えます。
日米景気の温度差は「個人消費の差」
昨年、コロナで世界の景気が同時に大きく落ち込みましたが、いち早くコロナ前を回復した米国と、依然として低迷を続ける日本経済との大きな差は、個人消費の差にあります。
米国が昨年から高成長を続けた主役は個人消費の好調で、そこにはトランプ前政権からバイデン政権に受け継がれた個人支援が大きく寄与しています。
コロナ支援策の対象が、日米で大きく異なりました。
日本は企業に給付金、助成金を払い、営業自粛、時短に応じた企業に「協力金」を支払うなど、“企業救済型”でした。その一方で個人には特別給付金が1人あたり10万円が給付されたにとどまりました。
このため、日本の個人消費は昨年夏場にこの給付金と「GoTo」キャンペーンで盛り上がった以外は低調を続けています。
これに対して、米国ではコロナ支援策として、3度にわたる個人向け給付金が一般個人には1人あたり最大3,200ドル(約35万円)の小切手が送られ、さらに失業者には週当たり600ドル(月に換算すると約30万円)の失業給付金の上乗せがなされ、さらに家賃補助などの生活支援もなされました。
コロナ支援策として、昨年以降、米国連邦政府は6兆ドル以上の債務を拡大して需要を追加しましたが、その多くが“個人支援”でした。
日米の政策支援の対象の差が、そのまま景気の勢いの差になりました。
日本では企業支援に金を使いましたが、企業は労働者の「首切り」を抑える程度で、投資が盛り上がったわけではありません。個人には給付金が1回払われただけで、一時的な消費回復を除けば、個人消費は低迷を続け、日銀の「消費活動指数」は、コロナ前をいまだに1割近く下回ったままです。
米国はGDPもすでにコロナ前のピークを上回っていますが、日本は来年中に回復するかどうか、というお寒い状況です。
この差のなかには、支援対象が企業か個人かの違いのほかに、日本では昨年、補正予算を3度も組みながら、結局30兆円もの大金が使われないまま「繰越金」となったこともあります。
つまり、政府の行政執行能力も問われています。