ウクライナ軍のハリキウ奪還作戦の実態と、それが将来もたらすリスクについて解説したい。もしかしたらこれは、1945年のナチスドイツによる「バルジの戦い」に似た結果になる可能性もある。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2022年9月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
1945年のナチスドイツによる「バルジの戦い」に似た結果になる?
前回の記事では残念ながら、ウクライナ軍のハリキウ奪還作戦には間に合わなかったので、これを解説することができなかった。記事の内容は南部、ヘルソン州の攻勢の実態にだけ限定することになってしまった。
そこで今回は、ウクライナ軍のハリキウ奪還作戦の実態と、それが将来もたらすリスクについて書く。
もしかしたらこれは、1945年のナチスドイツによる「バルジの戦い」に似た結果になる可能性もある。このようなことは日本では報道されないと思うので、重要だと思う。
ロシアが失ったものは大きい
9月11日、ウクライナ軍が、ロシア軍に支配されていた北東部ハルキウ州の大部分を奪還したと発表した。ウクライナ軍はこの数か月、南部、ヘルソン州の奪還を目標としていたが、これが高度な陽動作戦であったことが明らかになった。
ロシア軍はウクライナ軍のヘルソン攻勢に対応するため南部に移動しており、北東部のハリキウ州では手薄の状態になっていた。ウクライナ軍はロシア軍の不意を突き、電光石火のスピードでハリキウ州の主要拠点を占拠し、わずか数日間でハリキウ州の大部分の奪還に成功した。不意を突かれたロシア軍は、優勢なウクライナ軍に圧倒され、戦車や兵員輸送車などを残したまま急いで退却した。
ロシアが失ったものは大きい。
いまロシアの主要目的のひとつは、東部、ドネツク州の占拠だが、その補給路(兵站)の拠点がハルキウ州にある都市、イジュームを中心とした地域だ。ここにドネツク州攻略に必要な兵器や装備、そして物資が集積され、ドネツク州の戦闘部隊に供給される。このイジュームがウクライナ軍に占拠されたので、ロシア軍のドネツク州占拠はすでに風前の灯火だと見られている。
このウクライナ軍の勝利とロシア軍の敗北は、ロシア国内にも大きな影響をもたらしつつある。首都モスクワに128ある地区議会のひとつ、モノソフスキー地区の議会は、プーチン大統領の辞任を要求した。また、ウクライナに戦闘部隊を送っているチェチェンのカディロフ首長は、ロシア軍の作戦にミスがあったと案にロシア軍の首脳を批判した。このような批判は、ロシア軍の内部にもあるようだ。
一方、このような状況にもかかわらず、ロシアの態度は強硬だ。ロシアのペスコフ大統領報道官は、ロシア政府はウクライナでの「特別軍事作戦」ですべての目標を達成すると述べた。ペスコフによれば、プーチン大統領は前線の状況について認識しているという。ウクライナ軍による反攻を受けて、ロシア国防省は後退を戦略的な部隊の再編制としてみせようとしている。
ロシア国防省は、イジュームなどの地域のロシア軍を再編成して、ドネツク方面に注力することを決定したと明らかにしていた。ペスコフは、プーチンも「再編成」について認識していると述べた。ペスコフによれば、プーチンは特別軍事作戦のすべての行動について報告を受けているほか、国防省や軍幹部と24時間体制で連絡を取っているという。