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もう自動車依存経済は限界。40年も次のトップ産業が育たず、EV出遅れで家電の二の舞に=斎藤満

この40年、日本は自動車産業に支えられる経済を続けてきました。しかし、トップ産業を長年続けるなかで、商品供給と市場構造とが次第に乖離するようになり、さらにEVへの立ち遅れを突いて、中国製EV車が日本に殴り込みをかけてきました。このままではアジアに取って代わられた家電業界の二の舞になりかねません。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)

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※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2022年12月9日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

日本経済の4番打者「自動車」に陰り、次の産業が出てこない

今年のプロ野球で「村神様」の活躍が目立ったのとは裏腹に、日本経済の4番打者自動車のけん引力に不安が見られます。

戦後の日本ではトップ企業が所属する業界が10年ごとに変わりました。このため、リーディング産業の寿命10年説がありました。戦後10年ごとのリーディング産業は順に、繊維、造船、鉄鋼、自動車と移り変わりましたが、自動車の後が続きません。

この40年、日本は自動車産業に支えられる経済を続けてきました。

自動車産業の生産額は製造業全体の15%を占め、その巨大なピラミド構造から、多数の下請け企業群を引き連れて、日本経済全体に大きな影響を持ち続けてきました。

しかし、トップ産業を長年続けるなかで、商品供給と市場構造とが次第に乖離するようになり、さらにEVへの立ち遅れを突いて、中国製EV車が日本に殴り込みをかけてきました。

このままではアジアに取って代わられた家電業界の二の舞になりかねません。

国民の所得水準と乖離

自動車が日本のリーディング・インダストリーに駆け上がろうとしていた1970年代には、若者の夢が、車の助手席に恋人を乗せてドライブすることでした。初任給は10万円あるかどうかの時代でしたが、時間とともに給与は増えるという期待があり、借金して車や家を買うことに抵抗がありませんでした。成長期待のもと、所得が年々増えると思われていました。

しかし、バブルが弾けてこの30年、日本では賃金水準が全く増えなくなりました。OECDなどの国際賃金比較、推移を見て驚く人が多かったのですが、日本の国税庁の民間給与実態調査でも同様の結果が得られます。

昨年2021年の平均給与は年間443万円でしたが、20年前の2001年では454万円、25年前の1996年では460万円となっています。

25年前の主力車トヨタ・カムリの価格は200万円前後で、当時の平均年収に対して4割以下の水準でした。カローラは100万円を少し超える水準で、一般ユーザーから見れば、背伸びをしなくても手が届く価格帯でした。しかし、今日の主力車の価格帯は400万円を超えています。カムリもEV車の多くも400万円を超えています。

年収をすべて投入しても車を買えない人が半分以上になりました。もっとも、今日、年収1,000万円の人から見れば、25年前に主力車を年収の4割以下で買える人々と同じ条件になります。しかし、今日1,000万円以上の所得を得る人は全体の4.9%に過ぎません。

つまり、現在の主力車の潜在的な顧客層は5%弱に縮小したわけで、主要な自動車メーカーにとっては、市場がかつての10分の1に縮小したことになり、より小さくなった市場を相手に商売せざるを得なくなっています。年収1,000万円以下の人は新車をあきらめ、中古車か軽自動車にシフトするか、自動車の保有をあきらめることになります。

Next: EVで出遅れ。日本勢が苦戦しているのは技術格差よりコスト格差

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