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日本産高級卵、6個入り1,000円でも“輸出好調”報道に複雑な反響。適正価格を求める鶏卵業者と依然“優等生”ぶりを求める消費者との埋めがたい溝

卵高騰が叫ばれて久しい昨今だが、その傍らで日本産の卵が海外で人気となっているようだとの報道が、大きな話題となっているようだ。

記事で紹介されている愛知県内の鶏卵業者は、エサにエゴマやマリーゴールドを混ぜ、味にも色にも深みをもたせたこだわりの卵を、近隣の中部国際空港から直行便でシンガポールに空輸しているとのこと。

現地のスーパーでの価格は6個入りで1,000円と地元産より数倍高いらしいが、「黄身が濃い」「健康そうだ」と評判で、現地のミシュラン二つ星レストランなどからも指名を受けるほどだということである。

同社では2012年に卵の輸出を開始したそうだが、輸出額は10年で5倍に増えているという。

日本人は日本産の卵も買えなくなる?

俄かに注目を集めている日本産鶏卵の輸出だが、もっとも多い輸出先は香港のようで、昨年の輸出量は前年比3割増の約2万8,250トンと、鶏卵輸出全体の92%を占めていたとのこと。

香港ではTKG、いわゆる卵がけご飯の美味しさに目覚める人も、ここに来て増えているということで、輸出量はこの3年で3.3倍まで増加。少し前まで高級品扱いされていたという日本産の生卵だが、日本の物価が上がらないことから、香港においては気付けば“お手頃価格”になり、より需要が増えたという経緯もあるようだ。

このように日本産の卵が海外に輸出され、想像以上の高値で売れているという状況に対し、SNS上では「日本人の拘りは凄い」と誇りに思うといった声、さらに日本で安売りを強要されるなら海外に出したほうが賢明……といった意見もあがるなか、その反面では昨今の“卵高騰”も大いに影響してか「日本人は日本産の卵も買えなくなるかもなぁ」などといった、ネガティブな受け止め方をする向きも少なくないようだ。

日本国内では去年10月から鳥インフルエンザが過去最大規模で発生し、卵を産ませるためのニワトリの約1割にあたる1478万羽が殺処分されたのだが、これに端を発した卵不足、さらに価格の高騰が長らく続いており、JA全農が発表しているたまご相場によれば、3月27日のMサイズ卵の卸売価格は東京で1キロあたり369円と、高値水準を維持し続けているといった状況。

この影響はもちろん各家庭だけでなく、飲食業界や食品業界にも広く及んでおり、つい先日には福岡みやげの定番である「博多通りもん」が、小倉駅を含めた北九州地区での販売を休止したことが報じられ、大きな反響を呼んだばかり。

また、すかいらーくグループの「しゃぶ葉」では、すき焼きだしの玉子無料サービスが休止されて有料化、また「星乃珈琲店」のモーニングにおいては隠れた人気メニューだったエッグスラットの提供がひっそり終了したりと、日々の何気ない生活のなかで卵の不足や高騰を痛感する瞬間が、ここに来て殊に増えてきた印象も。そんななかで、日本産の卵が海外において高値で持て囃されていると聞けば、なんだか複雑な心境になるというのも分からなくはないところだ。

物価の優等生はいまや卵ではなく“賃金”か

長らく続く卵不足だが、鳥インフルエンザの猛威が収まり、消毒などが終わった農場に新たなヒナが導入されれば、それから約半年後には卵を産みだすということで、今秋以降には解消されるのでは……といった見通しもあるいっぽう、今回の鳥インフルで廃業した鶏卵業者も少なくないということで、生産量回復にはさらに時間がかかるのではといった見方も。

また価格のほうはというと、たとえ鳥インフル禍が終わったとしても、ウクライナ侵攻の影響による飼料代高騰は続く可能性が大ということで、こちらもまったく先を見通せないところのようだ。

さらに今後の卵価格といえば、日本の鶏卵業界が向き合うべき課題として残されている、国際的な飼育環境の新スタンダードとされる「アニマル・ウェルフェア(動物福祉)」の問題も、大きな影響を及ぼすことは必至といったところ。

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日本の大多数の養鶏場で採用されているバタリーケージ、鶏を収容した小さなケージを養鶏場内に積み上げて飼育する方式が、鶏に多大なストレスを与えるということで、EU諸国では禁止となるなど世界的に改善が進むなか、日本ではその対応がまったく遅れている状況。

世界的な食品会社などの間では、アニマル・ウェルフェアに配慮していない卵が忌避される動きも出ているなか、日本の鶏卵業界もいずれは対応せざる得ないといったところなのだが、これまで行ってきた効率性重視の“過密飼育”を止める方向となれば、生産コストは確実にあがるため、前までのようなアホのような安さで卵が売られることは、最早ありえなくなるだろうというのだ。

“物価の優等生”などと呼ばれていたのも過去の話で、今ではすっかり“グレてしまった”との嘆きの声も多くあがっている卵の価格。さらにSNS上では、これからの物価の優等生は卵ではなく、日本人労働者の“賃金”だといった、まったく笑えないような話も取沙汰されているところだが、とはいえ鶏卵業者が安価に買い叩かれる国内に見切りを付け海外に活路を見出す状況や、アニマル・ウェルフェアの問題などを考えれば、そんな優等生の“変節”もそろそろ受け入れざるを得ないといったところだろうか。

Next: 「日本人は物価の優等生と言う言葉で鶏卵農家をバカにしてきた」

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