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「G7最下位」1人あたりGDPで突きつけられた日本衰退。無謀な“賃上げ政策”でさらに悲惨に=斎藤満

内閣府が25日に発表した2022年の1人あたり名目国内総生産(GDP)によると米ドル換算3万4,064ドルとなり、G7中最下位になったと報じられています。賃金を見ても、OECD(経済協力開発機構)から30年間賃金が増えなかった唯一の先進国との事実を突き付けられ、さすがに日本政府は動かざるを得なくなりました。財政金融政策を総動員しての賃上げキャンペーンに出ていますが、場当たり的な政策対応は、新たな問題を生み出す「問題作(策)」となっています。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)

【関連】30年ぶり賃上げがもたらす最悪の格差社会。恩恵のない弱者と年金生活者は物価上昇で火の車=斎藤満

※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2023年12月25日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

格差を広げる7%賃上げの税優遇

OECD(経済協力開発機構)から30年間賃金が増えなかった唯一の先進国との事実を突き付けられ、さすがに日本政府は動かざるを得なくなりました。財政金融政策を総動員しての賃上げキャンペーンに出ていますが、場当たり的な政策対応は、新たな問題を生み出す「問題作(策)」となっています。

まず政府が財界に呼びかけるだけでなく、具体的に税制を使って賃上げ誘導しています。つまり、賃上げ促進税制として、人件費を前年から一定以上増やした企業の法人税負担を軽くします。例えば大企業の場合、人件費を7%以上増やした企業には、増加分の25%相当を法人税から控除します。ただし、賃上げ率の低い企業には控除率を引き下げます。

こうした「人参」をぶら下げられ、一部の大企業は早速7%の賃上げを表明しました。余裕のある企業にしてみれば、7%の賃上げも自社負担ではなく、一部を税金で負担してもらうことになるので、これを利用しない手はありません。

国民からすれば法人税が少なくなる分いずれ税金負担が回ってくるので、自らの税負担で賃金を賄う形となり。タコが自分の足を食べて腹を満たすようなことになります。

しかも、すべての企業が7%の賃上げに出られるわけではありません。賃上げ率に企業間の格差ができます。高い賃上げのできる企業には優秀な人材が集まりやすく、そのうえ法人税が減額されて利益が増えます。逆に賃上げが厳しい企業はますます人手不足が進むリスクがあり、税の優遇も得られません。

強い企業はますます強くなり、企業間格差、労働者間の格差が広がります。

法人税が減った分、政府がどうやって税収の補填をするかで、その負担が問われます。増税感のわかりにくい社会保険料負担を増やせば、高齢者、弱者の負担が増えます。所得税には課税最低限があって低所得者の税負担は回避されますが、社会保険料負担は低所得者にもすべて負荷されます。後期高齢者の医療費負担や介護保険料の引き上げが議論されています。

声が小さいと知らないうちに「増税」されてしまいます。

降ってわいた日銀の賃金目標

財政だけでなく、金融政策までもが賃上げを主眼とした政策決定をしています。

日銀法では通貨価値の安定をうたっていますが、その物価安定には賃上げは考慮されていません。良い物価上昇、悪い物価上昇にかかわらず、物価の安定が日銀の主たる目的となっています。

その点、米国のFRBは物価の安定とともに、最大雇用を目指す「ダブル・マンデート」になっていますが、それでも賃上げ目標ではありません。

日銀も賃上げを言い出したのはここ最近のもので、従来は物価の安定と賃上げとは必ずしも直接リンクしていませんでした。

ところが、日銀の2%の物価目標に現実の物価が到達し、世間からは物価目標達成とみられ、副作用の大きい大規模緩和を続ける正当性が問われるようになりました。

そこで黒田日銀は突然、「賃上げを伴った安定的な物価上昇」を持ち出しました。物価目標の扱い自体が日銀とFRBなど欧米の中銀とは異なっていました。つまり、欧米中銀は現実のインフレが2%の目標に到達してから政策変更するのではなく、目標達成が見込めるようになった段階で、政策の修正を始めます。政策効果にラグがあるからです。

ところが、日銀はこのラグを無視し、現実の物価上昇率が2%に到達した後も、大規模緩和を続けようとしました。その際、最初の理屈は海外からの輸入コスト高によるインフレは一時的で、また1%台の低い上昇率に低下する、というもので、その予想が外れ続け、日銀は3か月ごとの「展望リポート」で毎回予想を上方修正せざるをえなくなりました。

そこで急遽引っ張り出してきた理屈が「賃金上昇を伴う安定的な物価上昇」で、これならそう簡単に実現しないので、日銀は未来永劫、金融緩和を続けられる、と考えたようです。

Next: 賃金物価の好循環は絵に描いた餅。日本がどんどん貧しくなっていく…

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