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“外国人は無料”奈良県立美術館に殺到する「日本人差別」批判。インバウンド誘致のため08年から実施も県は効果検証をせず長年“放置プレイ”か

奈良市内にある公営の美術館が、日本人の来場者には通常の観覧料を徴収しているのに対し、外国人は無料で入館させているとの話が俄かに流布し、物議を醸しているようだ。

取沙汰されているのは「奈良県立美術館」なる施設。奈良県公式サイト内の同施設を紹介したページによれば、開館したのは1973年だといい、鎌倉時代から現代に至るまでの、主に日本の絵画や工芸、彫刻、書跡、風俗資料など、4,100点を超える所蔵品を擁するという。

そのいっぽうで利用案内をみててみると、特別料金が設定される“特別展”の開催時や、それ以外の時期を問わず、“外国人観光客(長期滞在者・留学生を含む)と付添の観光ボランティアガイドの方”は無料で観覧できるとの記載が確かに。このことに対し、ネット上の一部からは「日本人差別」との声があがる事態になっているというのだ。

海外観光地では割高な“外国人料金”は存在も…

最近では、富裕層が多いとされるインバウンドをターゲットにして、主に飲食店などがかなり強気な価格設定を行うといった事象をよく耳にするが、今回のケースは外国人観光客を対象にお安く……どころか無料にするという、いわゆる逆パターン。

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ちなみに海外のミュージアムに目を向けてみると、エジプトやインド、シンガポールといった一部の国においては、いわゆる“外国人料金”という設定があるよう。

ただ、これらは地元民向けの価格より外国人向け価格のほうが割高、あるいは現地民は無料で外国人は有料といった形のようで、今回のような“外国人のほうが安い”というケースは世界的にみても稀有なようだ。

先述した“インバウンド向け価格”の件に際しては、年々所得が伸び続ける諸外国から来た訪日客らの太っ腹ぶりと比較し、日本がすっかり安い国になってしまったことが如実に現れた事象だということで、嘆きの声も大いに聞こえたわけだが、今回はそんな裕福な外国人観光客を、なぜか“入場料無料”で優遇しているということで、「明らかにおかしいのでは?」と、奈良県の施策を疑問視する声が続出する展開に。

いっぽうで、そんな奈良県といえば昨年4月に行われた知事選において、日本維新の会が擁立した候補が、5選目を狙った現職候補らを破って勝利したことも記憶に新しいところ。

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大阪・兵庫に続く3人目の維新系知事の誕生となったわけだが、このことを好ましく思わない“アンチ維新”といった向きからは、「維新の力が強い地域では地域の文化歴史を発信する博物館・美術館が冷遇」「奈良県知事(日本維新の会)は日本人差別主義者」といった声もあがるなど、要は“維新の意向”ではないか……といった説までも、俄かに浮上しているようなのだ。

効果検証はされず長年“放置プレイ”か

ただ、この“維新の意向”説に関してはまったくな見当違いだったようで、というのもこの奈良県による“外国人は無料”の施策が始まったのは、維新系知事の誕生よりも遥かに以前の2008年だというからだ。

2008年といえば、日本の観光立国の実現に向け「観光庁」が、国土交通省の外局として誕生した年。そういった流れもあって、奈良県も外国人観光客の誘致を目指し、今回取沙汰されている奈良県立美術館以外にも、「奈良県立民俗博物館」「橿原考古学研究所附属博物館」といった県立施設で“外国人は無料”を始めたようだ。

ただ、この“外国人は無料”制度によって、果たして外国人観光客の来場者が増えたかどうかというと、どうやらその効果のほどはこれまでまったく検証されてなかったようで、「把握していない」とのこと。さらに今回の騒ぎで、県にも問い合わせが相次いだようで、それを受けて今後“外国人は無料”を続けるかどうか、検討する方針だという。

要は、当時の“めざせ観光立国”的な空気に乗って、何の気なしに始められた施策が、その目的や意義をほとんど顧みられることなく、半ば放置気味に15年以上も続いてしまったというのが実情のようなのだ。

奈良県といえば、法隆寺や東大寺などといった世界遺産を擁するなど、海外からの知名度もそこそこ高いにも関わらず、その割にホテル・旅館の客室数が少なく、とりわけ富裕層を受け入れられるような高級ホテルの類も、近年ようやく建ち始めたということで、今では外国人観光客からも“日帰り観光地”とのレッテルを張られている状況

日本各地で沸くインバウンドのビッグウェーブに、イマイチ乗り切れてないといった残念感も漂う奈良県なのだが、今回のようなある意味での“無為無策”ぶりをみれば、まさに「さもありなん」といったところだろう。

Next: 「奈良県の特殊性を踏まえた観光客誘致戦略」

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