プロにとってのトレードと、一般投資家にとってのトレード
一例を示しておくと、ちょっとデリバティブの話になってしまいますが、たとえば「ディープOTMオプションの売り」というような戦略がそれです。
ディープOTM(アウト・オブ・ザ・マネー)オプションの売りとは、たとえば日経平均が17,000円の時に、1ヶ月後の日経平均が15,000円以下になったら、時価と15,000円との差額を支払わないといけないというような取引です。その代わりにプレミアムというものを受け取れるので、1ヶ月後の日経平均が15,000円以下にならなかったら、その分が利益となります。
この取引で損失が出る可能性はほんの数パーセントしかありません。その代わり1回あたりで得られる利益もわずかです。そしてごく稀に巨大な損失が発生する可能性があります。まさにマルチンゲールの洗練されたバージョンですね。
もちろんディーラーの目的は、一定期間における利益の額を膨らませることです。でも、一回当たりの利益率はわずかでも、大手金融機関ならとてつもない規模でやることが出来て、額でもかなりの利益を稼ぐことが可能です。
プロにとっては、こうしたやり方(まだまだたくさんあります)が“賢いやり方”なわけですね。
でも、一般投資家はそうではありません。
勝率や短期的な成績は関係ないのです。短期的な成功を重ねても、大損を被って累積利益を吹き飛ばしてしまったら意味がありません。だから、致命的損失を避けながら、期待リターンがプラスのやり方をひたすら続けていくことだけが重要です。
「期待リターン」という用語には専門用語的なイメージがあるかもしれませんが、実はプロにとってよりも、一般投資家にとってこそ重要なものなのです。
でも、人は勝率や短期的な成績にどうしてもこだわってしまいますよね。そうした心理的な葛藤と、トレードの真の目的をどうやって折り合いをつけていくのかが、パート2における重要なテーマとなっていくわけです。
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『田渕直也のトレードの科学 Vol.011』より抜粋