ユーロドルがパリティを割り込む可能性は低い
一方、ユーロドルはどうでしょうか?
現時点での17年のシナリオは、強気シナリオが1.01ドル~1.18ドル、弱気シナリオが0.92ドル~1.09ドルです。
ユーロドルはドル高基調を背景に下落基調が続いています。米大統領選でのトランプ氏の勝利後のドル高基調の継続に加え、17年に控えるフランス大統領選や議会選挙、ドイツの総選挙など政治リスクへの懸念も上値を抑えているといえます。
政治リスクは17年のユーロドルのテーマとして取り上げられやすいものの、為替市場への影響はそれほど大きくないと考えています。
欧州の銀行問題も、ユーロに対する弱気な見方の背景にあるようです。
まず、ドイツ銀行問題ですが、米司法省と手打ちしたようです。ドイツ銀行は、米国での住宅ローン担保証券(MBS)の不正販売問題を解決するため、72億ドルを支払うことで米司法省と和解したと発表しました。当初は140億ドルと見積もられていましたが、ほぼ半分の額となりました。
これにより信用不安が深まる事態は避けられましたたが、経営再生にはなお時間がかかるとみられています。
一方、イタリアの銀行大手モンテ・パスキは、資本増強が不可避の状況となり、イタリア政府が支援する方向となりました。しかし、欧州委員会がこれを認めるかは不透明です。このように、欧州の銀行問題は最大のヤマ場を迎えています。
このように考えると、ユーロは買いにくいと感じるかもしれません。確かに、問題が実際に起きれば、金融危機に近い状況になるのかもしれません。
しかし、そのような状況をいまから懸念しても仕方がないことが、今年の市場動向でよくわかりました。
2007年から08年にかけての、サブプライムローンの問題のような惨事になれば、下落に向かうのは十分に予測できますし、実際に下げ始めてからでも十分に対応できます。
したがって、これらの問題に過度に懸念することは、今後は避けたいと思います。もっとも、より明確なエビデンスがあれば、それに伴って行動すればよいだけです。
一方、欧州中央銀行(ECB)の政策はどうでしょうか。
ECB12月8日の理事会で、量的緩和を9か月延長し、17年末まで継続するとしました。一方で資産購入額を17年4月から現状の800億ユーロから600億ユーロに減額するとしています。
ドラギ総裁は緩和継続に強いコミットメントを示しているものの、一方で政策自体はテーパリングと考えることも可能です。
したがって、今後は出口戦略を検討し始めているとの観測が浮上する可能性があります。そうなれば、緩和を背景とした金融政策面からのユーロ安には限界が出てくることが想定されます。
またドル円における日米実質金利差と同様のロジックで考えると、ユーロ高になりやすい構造にある点も見逃せません。
トランプ政権への期待が強まる中、ユーロドルは下落基調が継続し、将来的にはパリティ(1ユーロ=1ドル)になるとの見方も少なくありません。
しかし、世界的な金利の底打ちから上昇の流れの中、ユーロ債利回りも反転しており、現状の米国債利回りとの利回り差が加速度的に拡大する可能性はむしろ低いでしょう。
このように考えると、ユーロドルがパリティを割り込むほどの下落になる可能性は低いと考えることもできます。
戻り売り圧力は依然として強いでしょうが、一方で米国がドル安志向を鮮明にすれば、大きく下落する可能性は大幅に低下することになるでしょう。
将来の見通しは、どうしても直近の値動きが基準になりがちです。しかし、そこから一歩引いてみることが重要でしょう。
このような観点からも、私はユーロの一段の下落には否定的です。
いずれにしても、17年は極端なバイアスを掛けずに、冷静に市場動向を注視していきたいと思います。
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本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2016年12月26日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛したコモディティ市場の分析や、人気連載「マーケット人生物語~私の人生を変えたアノ事件」もすぐ読めます。
『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』(2016年12月26日号)より一部抜粋
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株式・為替・コモディティなどの独自の市場分析を踏まえ、常識・定説とは異なる投資戦略の考え方を読者と共有したいと思います。グローバル投資家やヘッジファンドの投資戦略の構築プロセスなどについてもお話します。さらに商社出身でコモディティの現物取引にも従事していた経験や、幅広い人脈から、面白いネタや裏話もご披露します。またマーケット関連だけでなく、野球を中心にスポーツネタやマーケットと野球・スポーツの共通性などについても触れてみたいと思います。