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投資家が警戒する「第2のプラザ合意」と超円高を日本が回避する方法=矢口新

「自国第一主義」を過剰に恐れる必要はない

トランプ大統領が就任演説で最も強調したのが「米国第一主義」だ。そのことを、「ポピュリズム(大衆迎合主義)」と非難するのが、メディアの論調だ。同じように、EUを離脱し、今後の英国の政策は英国自身で決めるとしたブレグジットも「ポピュリズム」と非難された。

確かに、大統領令にみるトランプ大統領は協調性に欠け、自国のことばかり考えているように見受けられる。この面で、トランプ大統領を擁護するのは、米国民でもない限り、難しい。

とはいえ、民主主義の国では、どこの国でも政治家は国民によって選ばれる。そして、どの国の国民も、自国の政治家には「自国第一主義」でいて貰いたいと願っている。誰が、日本の政治家に「米国第一主義」や「中国第一主義」などを望むだろうか?

もっとも、「自国第一主義」の対義語は「他国第一主義」ではない。ここでの対義語は「国際協調主義」だ。また、「大衆迎合主義」の事実上の対義語は「エリート官僚主義」、あるいは「理念優先主義」だ。

名ばかりの「国際協調主義」こそ諸悪の根源

現在の世界で「エリート官僚主義」、あるいは「理念優先主義」が最も顕著なのが、EUだ。特にユーロ圏では、通貨金融政策を決めるのは、各国の中央銀行ではなくECBだ。また、ユーロ圏では、将来の国家統合の理念のもと、財政収支の健全化を強く求めている。

つまり、経済政策の2本柱である、通貨金融政策と財政政策の実権を、各国政府ではなく、EU政府が握っている。しかし、EU政府は各国の国民が直接選んだ政府ではない。国際機関を例に挙げれば、日本の一般国民が、国連事務総長やIMFの専務理事の選挙に関与できないのと同様だ。

「エリート官僚主義」や「理念優先主義」は、平時には機能するかも知れない。ところが、2007年に米国発で起きたサブプライムショックと呼ばれる住宅バブルの崩壊、その余波で起きた2008年のリーマンショックにより、各国の財政収支は急速に悪化した。ユーロ圏での財政赤字の許容幅はGDP比3%なので、ユーロ圏の諸国は、不況時に緊縮財政を強いられた

不況時の緊縮財政は、景気をさらに悪化させる。ユーロ圏の諸国でも、各国の首長は自国民に選ばれているので、「自国第一主義」とばかり、緊縮財政には消極的だった。その結果、ドイツを除く主要国の首長はすべて解任され、その後の選挙で選ばれたEU政府に忠実な首長が、緊縮財政を受け入れた

以下のグラフに見るように、イタリアの財政赤字はGDP比5%ほどで踏みとどまっている。

ところが、アイルランドの財政赤字は2010年にGDP比32.1%にも拡大した。許容幅を10倍も上回ったのだ。アイルランドでも、首長の入れ替えはあったのだが、代わった首長も、EU主導の緊縮財政を受け入れなかったことが見て取れる。つまり、国際協調主義を捨て、自国第一主義を取った。アイルランドはユーロ政府の「エリート官僚主義」、あるいは欧州統合の「理念優先主義」を捨て、「大衆迎合主義」を選んだのだ。

その結果が2015年の実質GDP成長率が前年比26.3%増という、突出した高成長につながった。アイルランドの法人税率は世界各国から叩かれているが、それではイタリアのように緊縮財政に従って、超低成長であれば良かったのだろうか?

GDP成長率というと、もう1つ大衆には実感が湧かないかも知れないが、失業率は極めて身近だ。イタリアの失業率は2012年に2桁台となり、2015年でも11.9%に留まっている。一方のアイルランドは、2012年に14.7%まで上昇したものの、2015年には9.4%にまで低下した。

ポピュリズムではなく「生活防衛の知恵」

こうして見ると、大衆が「自国第一主義」の政治家を支持することは、無知でも、騙されているわけでもなく、生活防衛のためには不可欠な知恵だと見なすこともできる。

ギリシャは2016年に基礎的財政収支がGDP比2%の黒字になったと発表した。一方、アイルランドは2017年中に黒字化するとしている。共に、財政健全化という点では優等生だが、ギリシャはユーロ政府主導の緊縮財政により達成し、アイルランドは自国優先の財政出動により達成した。どちらの政府が自国民にメリットがあるかは、失業率の数値を見れば明らかだ。

ここでは、誰がユーロ圏の経済政策により恩恵を受けてきたかは触れないが、興味のある方は以下のマネーボイス記事をご覧頂きたい。
イギリス国民を「EU離脱」に追い込んだ、欧州連合とECBの自業自得=矢口新

国際機関が行うこと、正しくは「国際エリート官僚」たちが行うことは、しばしば意味不明なのだ。

Next: 米国による極端な円高誘導は困難、あとは日本次第!

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