米中貿易戦争の勃発によって株価が下落するという見方があります。もし米中対立がなくても、米国市場はリーマンショック時と同じだけの下げを経過するでしょう。(『少額投資家のための売買戦略』伊藤智洋)
※本記事は有料メルマガ『少額投資家のための売買戦略』2018年7月8日号を一部抜粋・再構成したものです。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。今月配信済みバックナンバーや本記事で割愛した全文(ドル円、NYダウの今後のシナリオ)もすぐ読めます。
プロフィール:伊藤智洋(いとうとしひろ)
証券会社、商品先物調査会社のテクニカルアナリストを経て、1996年に投資情報サービス設立。株や商品先物への投資活動を通じて、テクニカル分析の有効性についての記事を執筆。MS-DOS時代からの徹底したデータ分析により、さまざまな投資対象の値動きの本質を暴く。『チャートの救急箱』(投資レーダー社)、『FX・株・先物チャートの新法則[パワートレンド編]』(東洋経済新報社)など著書多数。
リーマンショックと同等に下げるなら、下値メドは1万8,887ドル
警戒を要する中国との取り引き
7月6日、米国が340億ドル相当の中国製品に対する制裁関税を発動しました。これを受け、中国側も対抗措置をとる方針を表明しています。
米国の狙いは、知的財産権の中国国内のルールによる侵害、金融市場に対する規制など、共産党支配化にある企業を保護して利用し、共産党の利益追求に邁進する中国に対し、対等なルールでの取引を求めてゆくことにあります。
日中韓FTA、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)により、今後、中国との貿易ルール作りに入っている日本にとっては、米中貿易戦争の先に不況が待っていたとしても、米国に安易な妥協をして欲しくありません。
2012年、尖閣諸島を国有化した日本政府に抗議する大規模な反日デモが中国国内で発生し、一部は暴徒化。パナソニックなどの日系企業の工場、トヨタ自動車の販売店等が放火されました。各地の日系百貨店やスーパーは、破壊や略奪に遭っています。
このような状況が意図的に作られたか否かにかかわらず、日本政府は、現地企業を守るすべがありませんでした。
中国との取引に対しては、過去の教訓を生かした厳格なルール作りを求めたいところです。
この下げ局面は「バブルの後処理」に過ぎない
株式市場は、景気がいいので上昇する可能性がある状況の中、米中対立が深刻化することで下落するという見方があるようです。しかし単純に、バブルがはじけた後処理による下げ局面に入っているだけです。
米中対立がなくても、NYダウはリーマンショック時の下げ幅と同じだけの下げを経過すると考えられます。
バブルは、金融政策の効果が現れて金利・賃金が上昇を開始する場面で、金融を引き締めず、減税や財政支出を拡大させることで起きる現象だと考えられます。
以前にも書きましたが、NYダウは、6,000ドル以上をつけた96年以降、1年間で2,000ドルの値幅の振れを経過して推移しています。
年間が強気パターンの年では、2000ドル幅の上げを経過する上昇の仕方となっています。リーマンショック後に急反転した2009年を除き、2010年から2015年までの上昇場面では、だいたい年間で2000ドル幅分の上げを経過してきました。
それに対し、2016年は高値から安値までが4,537ドルの変動幅となり、2017年が5,199ドルの変動幅となっています。
2016年は、いったん下げてから上げている分だけ、全体の上げ幅が大きくなったという見方もできますが、通常の年なら、年初からいったん1,955ドルの下げを経過して、その分のすべてを戻して、さらに2,000ドル以上の上げ場面を作ることなどできません。2017年は、ほとんど下げることなく、5,000ドル以上の上げを作りました。
2018年は、年初から1,807ドルの上げを経過した後、戻りを売られる展開になっています。
この上昇は、FRBが積極的な金融引き締めを躊躇している中で、トランプ大統領が選挙で述べてきた経済対策、金融規制の緩和、減税等を実施することにより現れた動きです。
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