これからの安倍政権と日本国民を待ち受ける、危険なシナリオ
それでも政府がGDP600兆円に拘れば、インフレにして名目GDPを高めるしかありません。例えば、今後5年間は実質成長率0.5%、名目成長率3%、GDPデフレーター2.5%上昇という組み合わせです。
これは日銀がデフレ脱却後も異次元緩和を続けてインフレにするケースです。黒田総裁も先日の会見で、600兆円目指して、日銀も最善の手を打つと発言しました。
しかし、これだけ景色が変わると、市場が混乱します。今の長期金利0.3%台というのは、日銀の買い入れはあるものの、名目ゼロ成長、ゼロインフレのもとで均衡しています。
それが一転して2.5%インフレ、3%の名目成長となれば、日銀が国債を買い続けても、長期金利は3%以上に急騰する可能性があります。新たな均衡点を探るからです。
10年国債の利回りが3%になると、国債価格は暴落し、これを保有する金融機関や投資家は大損します。これは株価にも大きな下げ圧力になり、企業の資金調達コストは大きく高まります。
財政でも利払い費が10兆円以上増え、財政を圧迫します。これらは景気を圧迫し、実質0.5%、名目3%成長を困難にします。
GDPの算出方法変更を織り込んだとしても――
一番ありそうな姿は、目標は掲げながらも、適切な手が打てずに、GDPが今のまま高まらず、アベノミクス「第2ステージ」に失望が高まるケースで、その場合はプライマリー・バランスの改善も頓挫します。
この差を縮めるために、政府は次回のGDP基準改定時に、新たに「研究開発投資」を設備投資に算入する案があり、その場合GDPは20兆円ほど高まります。
このように、GDP600兆円構想は、よほど綿密に、しかも強いリーダー・シップのもと、市場に細心の注意を払って望まないと達成できず、中途半端に頑張るとインフレで市場を混乱させるか、全く成果を挙げずに失望を買うことになります。
国民の気を引きたいのはわかりますが、却って政権の足を引っ張る要素にもなりかねません。
『マンさんの経済あらかると』(2015年10月9日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。