ドラギ総裁は10月22日、ECB政策理事会後の記者会見で追加緩和の可能性を示唆。これを好感した市場ではユーロ安、ドル高円安、株高が進行し、リスクオンの様相が強まっています。この「ドラギの魔法」が日銀の判断に与える影響は?金融アナリストの久保田博幸氏が解説します。
ドラギマジックは日銀を動かすか?
ECBドラギ総裁、12月の追加緩和に前向きな姿勢打ち出す
10月22日にマルタで開かれたECB政策理事会では、主要政策金利である短期買いオペの最低応札金利は0.05%で、中銀預金金利と限界貸出金利もそれぞれマイナス0.2%とプラス0.3%に据え置かれた。
会合後の会見でドラギ総裁は、「今日、事態は変わった。これは必ずしも、特定のこの手段を使うことを示唆しているわけではない。が、議論は非常にオープンだった」と述べた(ブルームバーグ)。
ドラギ総裁は、採用の可能性がある複数の緩和手段について、「非常に濃い議論」があったとした。
さらに「金融緩和の度合いを、最新のマクロ経済予測が手に入る12月に再検証する必要がある」と発言した上で、近い時期の緩和を示唆する「警戒を怠らずにいたい」とトリシェ前総裁が使った言葉を付け加えた。
つまり次回、12月3日のECB政策理事会において追加緩和を打ち出す可能性を示唆したのである。
追加の緩和手段としては、2016年9月までとしている量的緩和の期間を延長することのほか、銀行が中銀に余剰資金を預け入れる際の手数料(マイナス金利)を拡大することなどを、今回の理事会で協議したこともドラギ総裁は認めたようである。
「ドラギマジック」を素直に好感した市場
今回もドラギマジックは遺憾なく発揮され、欧米の株式市場は上昇し、23日の東京株式市場も上昇した。外為市場ではユーロが売られ、リスクオンの動きから円安も進行し、ドル円は121円近くまで上昇した。
ドラギ総裁は追加緩和の内容よりも、行動を起こすことにより、市場参加者への期待感を強めようとしたとみられる。
その手段はどうあれ、金融政策で直接、物価などに働きかけることは難しいものの、ユーロ安や株高に働きかけることで多少なりの効果を狙ったものと思われる。
ドラギマジックに、市場は素直に反応した。これに対して日銀はドラギマジックのようなピーターパン効果を与えることは可能なのであろうか。
日銀は「異次元」から通常の次元へ?
ドラギ総裁は緩和ありきの姿勢を示した。しかし、日銀は物価の基調は回復しているとの姿勢は崩しておらず、付利の引き下げも否定している。ECB同様に日銀も道具箱にはあまり道具はない。その道具を適切に使うとすれば、マジックも必要になる。
10月30日の展望レポートが発表されるタイミングでの追加緩和があるのか。もし追加緩和をするのであれば、大胆なものは難しく、金融政策のスタイルを以前の姿に戻すことが必要になる。フレキシブルな金融政策に戻した上での追加緩和というのであれば、少ない道具でも有効に使えるかもしれない。
しかし、それはアベノミクスで打ち出した金融政策とは趣が違うものとなり、異次元から通常の次元に戻ることになる。
『牛さん熊さんの本日の債券』(2015年10月23日号)より一部抜粋
※タイトル、見出し、チャートと太字はMONEY VOICE編集部による
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