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東芝粉飾問題であらためて問われる、監査人の哲学と人間力=公認会計士・柴山政行

東芝の粉飾決算問題が新たな局面を迎えました。報道によると、東芝に対し課徴金を課すとともに、東芝の担当監査人「新日本有限責任監査法人」にも行政処分が検討されているとのこと。この一連の東芝問題について、自身も監査現場を経験した公認会計士の柴山政行氏は、監査技術や会計知識以前に、監査人としての哲学と人間力が問われるべき事態との見方を示しています。

監査技術や会計知識よりも大切な、監査人の「哲学」「人間力」

東芝の不適切会計問題は新たな局面へ

11月18日の日経1面では、証券取引等監視委員会が東芝に対し、行政処分として、月内にも課徴金を課すよう金融庁に勧告する方向で最終調整に入った、と報じています。

4月3日に東芝が不適切会計を公表してから半年以上がたち、東芝の責任問題が新たなステージに進んだことを示していますね。

課徴金70億円超は、過去最高額となる見通しです。

これまでの大きな事例としては、

  • IHI……16億円
  • JVC・ケンウッド・ホールディングス(当時)……8.4億円
  • リソー教育……4億円
  • オリンパス……0.2億円(このほか罰金7億円)

などがあります。

これらと比べても、東芝の案件の大きさがわかりますね。

なお、同社の決算に適正意見として監査証明をしていた監査法人の責任は、会社への責任追及に比べてあまり表に出ませんが、次のような報道もなされています。

東芝監査法人処分へ:別の不祥事でも不備 金融庁指摘 – 毎日新聞(2015/11/19)

東芝の不正経理問題で、金融庁が担当監査人の新日本有限責任監査法人に対して、公認会計士法に基づく行政処分の検討に入ったそうです。

新日本は、利益の水増しが判明した2009年3月期以降の東芝の決算についてすべて「適正」と認定していました。

金融当局からは、企業の内部事情に最も通じた監査人として、より適切な対応をすべきだったと指摘されています。

公認会計士3つの資質~だが3つ目こそがいちばん難しい

これに関して、私の見解をひとこと。

かつて監査現場にいた者の1人として思うことですが、今回の件では、公認会計士として必要な資質である3つのうち2つ、とくに最後の1つについて、必ずしも十分ではなかったのではと考えています。(1番目があるのは当たり前として)

  1. 専門知識(会計・監査)……あるはずです(なきゃまずい)
  2. その業界のビジネス知識……経験上、不安なケース若干あり
  3. 監査人としての哲学と人間力……一番難しく教育不足?

つまり、現場で「これ、やばいかも……」と思ったときに各監査人の危機意識が十分にあるか、それに対して単独でも立ち向かう人間力・勇気があるか、実はこの部分に切り込んでいる報道記事や解説がなかなか見当たらない。

実は、監査技術とかそういう問題だけではないのですよ、こういったことは。

今回の案件が、本当に「やるべき監査をして発見できなかった」という話なら、また別ですが、もしもうすうす気づいていたなどということがあるならば、本当に切り込むべきは「監査人としての意識・行動力が欠如していなかったかどうか」という、倫理のレベルがどうだったかの話になるでしょう。

周りを敵に回してでも、怪しいと思ったことを毅然と言い切る勇気をもった監査人を育てられるかどうか。あるいは、いかなる方法をもって、信頼できる人物に監査人になってもらうか。そういった議論は「監査技術」「会計知識」以前の問題なのです。

会計の専門家である公認会計士のチェックを経て「適正」と認定された決算書で大掛かりな不備や不正が露見すると、やはり世間からの株式市場に対する信頼が根本から揺らぎかねません。

会社の決算が信用できなくて、株式投資ができるか!」という話になるからです。

こうしたことを踏まえて、監査人の人的な資質が、今後は技術的・専門的な資質以上に問われる時代が本格的にやってくるのかもしれません。

【関連】東芝の不正を見落とした「新日本有限責任監査法人」は逃げ切れるか?=平林亮子

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時事問題で楽しくマスター!使える会計知識』(2015年11月20日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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