効率的市場仮説によれば、株式市場はあらゆる材料を瞬時に織り込むため、特定の手法で市場平均を上回るリターンを得るのは不可能だ。しかし、効率的市場仮説を市場参加者みんなが信じたらどうなるだろう?(『「兜町カタリスト」』櫻井英明)
みんなが信じると、市場は効率的ではなくなってしまう?
まったく違う2人
「効率的市場仮説」という考え方がある。
簡単に言えば、「現時点での株式市場には利用可能なすべての新たな情報が直ちに織り込まれており、超過リターン(投資家が取るリスクに見合うリターンを超すリターン)を得ることはできず、株価の予測は不可能である」(野村証券用語解説集)という学説。
2013年のノーベル経済学賞はユージン・ファーマ氏、ロバート・シラー氏、ラース・ピーター・ハンセン氏に与えられた。ただ、効率的市場仮説で有名なファーマ氏に対し、シラー氏は反効率的市場仮説派。まったく反対のことを言っている2人の学者がノーベル賞を取れる唯一の分野とも揶揄された。
この説のミソは、「特定の手法によって儲かるような機会が放置されることはなく、価格変動の予測が困難である以上、たとえ専門的な知識や技術を持つファンドマネージャーが銘柄を独自選別するアクティブ運用型のファンドであっても、市場平均に勝つのは難しい」(野村証券用語解説集)。
だからこそ効率的市場仮説はインデックス投信やETF拡大のバックボーンになったと言える。あるいはインデックス投資隆盛のお墨付きでもあったことになる。
直線にならない株価チャート
ひねくれて考えると、「市場はあらゆる情報を織り込んでいる」のであれば、株価が右往左往することはなかろう。
もしも市場が本当に効率的であるならば、株価チャートは真上か真下を向いた直線でなければならないだろう。あるいは…。
同じ銘柄・同じ指数に対して、売りも買いも存在するということは、市場は効率的でないことの証拠なのではなかろうか。そういう罫線にお目にかからない以上、市場は完全に効率的ではないと言える。不完全な効率的市場と言い換えた方がよいかもしれない。
ひねくれ説の2つ目も見つけた。それは…。
効率的市場仮説が正しければ、すべての株価は適正で、割高、割安といったものが存在しない。ならばいくら分析をしても無意味となる。
しかし、効率的市場仮説を市場参加者みんなが信じたらどうなるだろう。
市場参加者全員が株価の予測は意味がないと信じた結果、全員が財務諸表の分析や新しいニュースの影響等を考えるのは時間の無駄だと考える。そんな分析が必要だったら、とっくに市場がやっているはずだというのがその理由。
その結果、市場は新しい情報を織り込まなくなり、効率的ではなくなってしまう?
効率的市場仮説は、みんなが効率的市場仮説を信じないときにより正しくなる。みんなが信じると、正しくなくなってしまうというパラドックス。ノーベル経済学賞受賞の学説では儲からないという格言だけが正しそうな気がしてくる。
笑い話
こんなジョークもある。
- 経済学者の第一定理:
- ある意見を持つ経済学者がいると、反対の意見を持っている経済学者が必ずいる。
- 経済学者の第二定理:
- 2人とも間違っている。
『「兜町カタリスト」』(2015年11月17日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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