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トランプが日本に「円高」強制へ、日米通商交渉でさらに投資環境は変化する=近藤駿介

完全に吹き飛んだ利上げ懸念

3ヵ月前まではFRBは漸進的利上げを続け、ECBは今年10月の任期を迎えるドラギ総裁が退任を前に金融政策の正常化に道筋をつけると考えられていた。

しかし、米欧での利上げ懸念はこの2か月間でほぼ完全に吹き飛んだ。CME Fed Watch でみても、1月中旬まで約30%の確率で年内の少なくとも1回以上の利上げが見込まれていたが、3月上旬には年内利上げ観測は市場から消滅し、直近では年内1回以上の利下げが50%以上の確率で見込まれるようになっている。

日銀に加えECBとFRBでも利上げ懸念が消えたということは、円だけでなくユーロもドルもキャリートレードの「調達通貨」になり得るということである。

その一方で、中国がマレーシアやインドネシア一国のGDPに匹敵する規模の財政支出を表明したことは、調達コストが下がる中で資産サイドの期待リターンが維持される可能性を感じさせるものである。

こうしたことを考えると、中国が大規模な財政政策を打ち出し、ECBが金融緩和方向に舵を切った3月上旬を契機に、キャリートレードが復活する状況が出来上がったといえる。

3月22日に「逆イールド出現」を理由に460ドルを超える下落を見せた米国株式市場がすぐに立ち直り、半年ぶりの高値を取ってきたことも、キャリートレードの復活を感じさせる動きである。

2月末を基準にすると先週末時点で2018年に16.6%もの大幅下落を記録したMSCI Emerging Indexは上海総合の10.4%(2018年下落率▲24.6%)上昇に牽引される形で3.3%の上昇を見せていることも同様である。

キャリートレードに適した投資環境は続くのか?

ここに来てトランプ大統領がFRBに対する口撃を強めるなど、FRBの金融政策は利上げには障害が多い一方、利下げには障害がないという非対称になっている。

こうした傾向は大統領選挙が本格化する来年に向けてより強まってくる可能性が高い。実際に金利とFRBのバランスシートの正常化に舵を切っていたイエレン前FRB議長も、大統領選挙が行われた2016年には選挙が終わるまで利上げを見送っている。

キャリートレードが成立するためには、金利が上昇しない、通貨が上昇しないという「調達通貨」が存在するという調達側の条件に加え、魅力的な投資先があるということが必要である。

積極財政のもとで、FRBに対して利下げと量的緩和の拡大を要求しているトランプ大統領の存在は、キャリートレードを行う投資家の眼にはマリア様に映っているかもしれない。

キャリートレードが復活しているとしたら、いつまでキャリートレードに適した投資環境が続くのかが問題である。

キャリートレードが解消に向かう環境というのは、「調達通貨」の利上げあるいは通貨高という調達コストが上昇に向かうか、投資対象となるリスク資産の急落という資産サイドに問題が生じるかのどちらか、あるいは両方が生じた時である。

調達サイドを考えると、現時点ではFRBもECBも利上げに動く可能性は限りなく0に近く、調達サイドの心配は見当たらない状況にある。

従って、現時点でキャリートレードが巻き戻されるとしたら、リスク資産価格の大幅下落など資産サイドに問題が生じる局面が訪れることである可能性が高い。

実際に世界経済の見通しは鈍化方向に向いているうえ、米中貿易交渉ブレグジットなど不確実要素も多く、中央銀行の金融緩和策で失速を防げない事態が起きたとしても不思議ではない。

Next: まもなく始まる日米通商交渉、結果はいかに?

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