なぜアメリカは年内の問題解決を要求したのか?もう1つの文書
もちろん、韓国に対してもアメリカは、問題解決を図るように強い圧力をかけていることだろう。だが、上の文書を見ると分かるが、アメリカは日韓関係の悪化の原因をもっぱら安倍政権の問題ある歴史認識にあると見ている。そして、東アジアに不用な緊張をもたらしているのは、こうした特異な歴史認識に固執する安倍政権の過度にナショナリスティックな姿勢だとしている。そうした事実から見ると、アメリカの韓国への圧力は安倍政権ほど強いものではなかった可能性がある。
この文書が出された18日後に、安倍政権は突然と日韓関係改善に向けた動きを開始した。もちろん、これだけではなく、この後アメリカからの直接的な圧力があったと見た方がよいだろう。
さらに、それまでの日韓関係悪化の状況を考えると、関係改善を進めるために、安倍政権は韓国に大幅な譲歩をした可能性がある。その譲歩がなんであったのか、いまのところ表には出ていない。
しかし、それにしても、なぜ年内に「従軍慰安婦問題」の解決を焦る必要があったのだろうか?
調べて見ると、これにもアメリカの強い圧力があったことを示唆する文書が出ている。これは、2015年12月20日にアメリカの外交政策の奥の院とも言われる「外交問題評議会(CFR)」が出した「日本と韓国の緊張を管理する」という文書だ。これは討議用資料という体裁で出ている。
Managing Japan-South Korea Tensions – A CFR Discussion Paper
この文書の結論部分には次のようにある。
「日韓の緊張した関係に介入するアメリカのオプションは、相互に排除的なものとはならない。過去アメリカは、レフリーやときにはコミッショナーとして役割を果たしてきた。
しかしながら、どちらの役割も、多くのアメリカの分析者が指摘するように、日韓の協力を拡大するための積極的で集中的な戦略とはなり得ていなかった。新しいアプローチを導入するためには、3カ国の指導者は日韓関係に高い優先順位を与えなければならない。東京とソウルとの相互不審の状況を見ると、結果を出すためにはアメリカの強引な関与が必要となろう。
もちろん、日韓関係の難局に直接介入することは(アメリカにとって)リスクとなるが、すでに北東アジアの国際関係の変化は、日本と韓国というアメリカにとってもっとも重要な同盟国の関係悪化のコストを高く引き上げている。
日韓の協力を強化し、米日韓3カ国の関係を深化させる条件の形成に失敗することは、北朝鮮や中国に対応し、一層民主的で平和で安定した未来の北東アジアを計画するアメリカの能力を損ねるものである」
以上である。
これもかなり強力な文章だ。要するに、日韓は関係改善を主体的に行わないのであれば、アメリカが強制的に介入して関係を改善させるという、やはり脅しに近い内容だ。
この文書が出されたタイミングは非常に重要である。12月20日に出されている。そしてその4日後の24日に、安倍首相は岸田外相に年内の訪韓をするように指示した。
日本では、日韓国交正常化50周年に間に合わせるための訪韓指示と報道されているが、おそらくそうではないだろう。この文書が示すアメリカからの強い圧力が関係改善を年内に急いだもっとも大きな理由だと見たほうがよい。