思考実験──片づけるべき用事とは
『ジョブ理論』によれば、以下の問いに答えることで用事をより具体化できるようになる、としています。
1.その人がなし遂げようとしている進歩は何か。求めている進歩の機能的、社会的、感情的側面はどのようなものか。
2.苦心している状況は何か。誰がいつどこで何をしているときか。
3.進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か。
4.不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか。ジョブを完全には片づけてくれない商品やサービスに頼っていないか。複数の商品を継ぎはぎして一時しのぎの解決策をつくっていないか。
5.その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か、また、その解決策のために引き換えにしてもいいと思うものは何か。
出典:『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(第2章 プロダクトではなく、プログレス)
用事の特定
イノベーションを起こすための最初のステップは、ある状況下で顧客がなし遂げようとしている進歩を特定することです。そして、その進歩には機能的、感情的、社会的側面があり、どれが重視されるかは文脈によって異なってきます。また、用事を特定することにより、真の競合相手もみえてきます。では、同社の場合はどうなるのでしょうか。
今回は、同社が課題とする「直接相談案件の増加」を取り上げます。同社はそれを次のように認識しています。
当社の受託案件の大半は、金融機関等の提携先からの紹介案件であり、顧客企業から直接当社にご相談いただく案件の割合が低くなっております。紹介案件は、比較的良質な案件を獲得できるというメリットがある一方で、紹介料の負担があり、利益率を押し下げるというデメリットがあります。今後は、紹介案件と直接相談案件をバランスよく受託するために直接相談案件を増やすことが重要な課題であると認識しております。
この課題を解決すべく、ダイレクトメールや電話によるダイレクトアプローチ等、直接相談案件を獲得するための活動を強化しております。
企業譲渡を検討している顧客がなし遂げようとする進歩の機能的側面は「企業の売却」。感情的・社会的側面として「事業の継続」「後継者不足」といったことを重視しています。一方、企業買収を検討している顧客がなし遂げようとする進歩の機能的側面は「企業の買収」。感情的・社会的側面として「起業」「のれんを守る」といったことを重視しています。
後継者不足に関してNHKの記事は次のように指摘しています。
中小企業庁によりますと、2025年までの10年間に70歳を超える高齢の経営者は、全国に245万人。この半数に当たる127万人に後継者がいないといいます。そのまま廃業してしまうと650万人の雇用がなくなり22兆円のGDPが消失するとも試算されています。
いずれにしても、後継者不足の解消は喫緊の課題だといえます。
なお、同社は「同業者との競合」を次のように認識しています。
M&A仲介業務は、必要な許認可や資格等が存在するわけではなく、設備投資等の大規模な投資も必要ないため、参入障壁が比較的低い事業であると考えております。中堅中小企業のM&Aニーズが拡大する中で、当社のようなM&A専業会社はもちろん、銀行や証券会社等の金融機関との競合が激しくなる可能性がありますが、当社の東海地方における充実した営業基盤やこれまでの実績、名南コンサルティングネットワーク各社との連携から獲得した専門的なノウハウ等は短期間に模倣することはできないと認識しております。しかしながら、提携先金融機関の取組方針の変化(M&A専業会社との協業から自社単独で仲介業務を実行等)や更なる競合他社の増加により競争環境が激化した場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
これ以外に競合となり得るのはマッチングサイトです。NHKの記事は次のように指摘しています。
個人が企業買収に関心を高める背景には、インターネット上で企業の売買を仲介する「マッチングサイト」の存在があります。
今や10を超えるサイトに、買い手を募る1,000以上の企業が掲載されています。地域や売上げ規模、業種などから条件にあう会社を絞り込むことができ、中には250万円以下で売られている会社もあります。