企業の対応は…
では、それに対して企業はどう対処するのでしょうか。
新年賀会での経済団体幹部の発言からは、「日本的経営」「日本型雇用」の見直しが示唆されています。具体的には「終身雇用制」「年功序列賃金」はもはや維持できない、ということです。
政府の定年延長要請とリンクさせる場合、「終身雇用」の中身が変わります。つまり、70歳まで働かせるとしても、社内に高齢雇用を処遇するポストがないために、子会社、関連会社に出向させる形で雇用を維持する可能性があります。
その場合には、年功序列賃金は維持できなくなり、賃金カーブのピークは、現状の50代前半から40代にシフトすると見られます。
結果として、企業が支払う総人件費は増えず、従って労働者も70歳まで職を得られるとしても、給与水準は40台をピークに、以後漸減する形になりそうです。
これは将来の昇給を当て込んで住宅ローンを借りる人、すでに借りている人にはハシゴを外されたようなもので、途中から実質負担が高まるリスクとなり、生活を圧迫する形となります。
同一労働・同一賃金
次に「同一労働・同一賃金」ですが、正社員と同じ仕事をしていながら、非正規雇用と言うだけで給与が低く、ボーナスも出ないのは不当、との訴えが増えています。
この批判に、一部の企業では非正規雇用を正規雇用にシフトする動きも見られます。
しかし、この動きはマイナーで、そもそも政府と一体となって人件費削減を進める手段として非正規雇用を増やしてきた企業が、みすみす正規雇用に戻すとも考えられません。
実際、「働き方改革」が実施に移された昨年4月以降、企業の人件費支払い額は、明確に減少しています。昨年1-3月までは増加基調にあった人件費支払い額が、4-6月は前年比0.7%減、7-9月は1.8%減となっています。
この動きを見る限り、「同一労働・同一賃金」を進める上でも、企業はトータル人件費を増やさない形で進めることを考えると見られます。
非正規雇用の給料を上げるだけのはずが、正社員の給料も下がっていく?
その場合、現在大きな差が見られる正規雇用の給与と非正規雇用の給与と、どちらに収れんするのでしょうか。
因みに、国税庁の「民間給与実態調査」によると、2018年度の年間給与は正規雇用が504万円、非正規雇用が179万円と、3倍近い差が見られます。
常識的には、同じ仕事をしているのであれば、非正規雇用の179万円を504万円に引き上げる方向が期待されます。
政府は今年度予算で、非正規雇用の基本給を引き上げた企業に政府助成金を出すため、2億円の予算を組み、20年度には7億円に増額しますが、実際の適用は想定の7千人ではなく、数人に留まりました。
かつて雇用調整助成金を出した際、中小企業トップは労働者に使わずに、自ら外車購入に充てていたケースが報じられ、批判を浴びましたが、同様の悪用が懸念されています。
前述のように、企業はトータル人件費の増加にはかなり抵抗があります。企業としては正規雇用の給与を引き下げ、非正規を引き上げ、均衡をとろうとすると見られます。