fbpx

日本アニメに赤信号「中国の下請け化」進行で制作会社売上10年ぶり減少。中国“3兆円”市場はアニメーターの敵か味方か?

日本のアニメ制作業界の市場規模が10年ぶりに縮小したと報じられ、ネット上で様々な議論を呼んでいる。

報道によると、2020年のアニメ制作業界の市場規模(事業者売上高ベース)は、過去最高を更新した2019年を1.8%下回る2,510億8,100万円に。2019年までは9年連続で拡大していたものの、2020年はテレビアニメの制作本数が各社で減少や、新型コロナウイルスの感染拡大による制作スケジュール遅延などが影響し、一転して縮小に転じたという。

また制作会社のなかでも、自社コンテンツを有する制作大手や経営体力に余力がある元請けでは増益となったところが多いいっぽうで、下請けとなる専門スタジオは赤字割合が過去最高となるなど、二極化が鮮明となったようだ。

いっぽうで、2019年のテレビアニメ制作本数は314本で、3年連続で減少する結果に。これまで制作本数の増加に伴う需要増によって支えられてきた日本のアニメ制作業界は大きな転機を迎えていると、記事は記している。

もはや無視できぬ急拡大中の中国アニメ市場

アニメといえば日本が世界に誇るサブカルチャーのひとつだけに、その制作市場の減少となると「寂しい」といった印象も。とはいえ、一昨年まで9年連続で成長し続けていたなかでの、コロナ禍の影響も大きい規模縮小ということで、さほど深刻な状況でもないようにもみえる。

そんななか、コロナ禍以上に日本のアニメ制作業界に大きな影響を及ぼしているのが、中国アニメの急成長だ。ひと昔前までは、日本のアニメ制作業界にとっては下請け先のひとつといった存在だった中国だが、その下請けの経験やさらには日本の製作委員会への出資などを積極的に行うことで、日本の持つアニメ制作のノウハウを獲得。また国を挙げての支援と豊富な資金力を背景に、質の高いアニメーターの確保や設備投資を進めた結果、近年著しい発展を遂げているというのだ。

実際、日本のアニメ市場規模は直近のデータによると2兆5,000億円とされるのに対し、中国は3兆円超と、すでに日本を凌駕している。さらに、中国現地のによると「中国にはまだ日本のようなアニメ熱はない」といった空気のようで、これからまだまだ伸びる余地があるようなのだ。

そうなると、日本のアニメ業界が中国への進出を狙うのは当然の流れで、以前まではいわゆる海賊版が大いに出回っていた中国のネット上だったが、近年では「bilibili動画」など現地の大手動画サイトが日本側から正式に放映権を買い取り、中国向けに配信するというビジネスモデルが定着。しかし、ここに来て中国サイドによる「事前検閲」の動きが顕著になっているという。

そのような流れを受けて、最近では中国国内での配信を目指す作品のなかには、作画や内容における中国への“忖度”が見え隠れするようになったものも。つい最近では、人気のメディアミックスコンテンツである『ウマ娘』において、とあるキャラクターの衣装が修正され、それまで服に描かれていた台湾国旗が削除されたとして、ファンの間でちょっとした話題となったばかりだ。

制作現場では中国の「下請け化」も進行中

いっぽうで、日本のアニメ市場を縁の下で支える制作の現場だが、こちらは中国のアニメ関連企業の下請けになるところも出ているという。

今回の記事でも、制作大手や元請けの制作会社が堅調だったいっぽうで、その下の下請けの制作会社は赤字となったのが42.6%、減益も27.9%と7割超が損益面でマイナスになったと伝えられている。コロナ禍によるアニメ作品の制作見送りや中止による、元請けからの発注量の減少が、そのまま減収に繋がった形だ。

そもそも下請けのアニメ制作会社に関しては、長時間労働にくわえて低収入という労働環境の劣悪さが、かなり以前から叫ばれていたものの、業界内において抜本的な解決策が打ち出されることはなく、いうなれば放置されたままの状態だったのだが、そこに目を付けたのが中国企業。中国では海外発コンテンツの流通規制が強化される流れにあり、そのために中国国内の配信プラットフォームなどは、作品の自前での制作を目指すように。そのために日本の制作会社を傘下に入れ、豊富な資金力を活用してクオリティーの高いアニメを作ろうとしたのだ。

実際、中国傘下の制作会社では日本国内のアニメ制作会社における平均月収を上回る給与が払われているとのことだが、実は現地中国で雇用しているアニメーターには、その約3倍もの報酬が支払われているのだとか。ひと昔前までは、中国は日本の下請け先だったのが、もはやその位置がすっかり逆転しているというのだ。

このように下請けの制作現場に従事するアニメーターにとっては、急成長を遂げる中国アニメ市場はある意味で味方でもあり“希望の光”といった存在か。いっぽうで、アニメ制作を下支えしてきた人材の“流出”が進めば、日本アニメの地盤沈下は避けられず、アニメ制作市場の縮小に関しても今年だけに限らなくなる可能性も大いにあり得そう。アニメ制作現場の環境改善にひたすら目を背き続けてきたツケを、今後たっぷりと払うハメになっていきそうだ。

Next: 「粗製乱造では中国に抜かれても仕方ない」

1 2
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー