世界中でインフレが高進していますが、このままインフレが続くという見方と、間もなく収まるという見方に分かれています。どちらが正しいのでしょうか?また、マーケットはどう反応するのでしょうか?注視すべきポイントを解説します。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2022年5月9日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
分かれるインフレ高進の評価
欧米を中心に、世界のインフレが急伸しています。ユーロ圏の3月のPPIは前月比5.3%、前年比36.8%の上昇と、インフレ途上国並みの数字となりました。
しかし、主要国の中央銀行の対応は総じて後手に回りました。その結果、FRBも慌てて引き締め転換を進めています。
5月4日のFOMCでは予想通り0.5%の利上げと6月からの保有資産縮小を決定しました。そして6月、7月も0.5%利上げの継続を示唆しました。
近年、こうした急ピッチの引き締め転換を余儀なくされたことはなく、極めて異例の対応で、株式市場、債券市場ともに不安定になっています。
急ピッチの引き締めの影響を和らげるために、予め市場に利上げペースを示唆する配慮も見られます。それだけ中央銀行にとっても今回のインフレの評価、対応が難しかったことになります。
米国のCPI(消費者物価)は3月に前年比8.5%の上昇と、40年ぶりの高い水準となりましたが、債券市場の期待インフレ率を示すBEI(ブレーク・イーブン・インフレ率)は5年で3.2%台、10年では3%弱にとどまっています。市場は今の高いインフレも間もなく収まり、また2%に向かって終息するとの見方が多いようです。
主犯は大規模なコロナ支援策
インフレの評価をかく乱したのがコロナ・パンデミックでした。
世界規模で経済活動をマヒさせる要素となっただけに、これが一巡すれば、経済は元の「低インフレ低金利経済」に戻るとの潜在意識がありました。
このため、突然のインフレ指標の上昇は、米国でコロナの感染抑制のための規制が緩和されたことが、航空運賃、自動車など一部の商品、サービスの需要を集中させたとの認識がFRBの主流意見でした。
しかし、ここで見落とされたのが、コロナ・パンデミックを契機に、世界の主要国で一斉に実施された大規模な金融財政両面からのコロナ支援策の影響でした。米国ではFRBが20年3月に緊急対応として金利を一気にゼロまで下げ、資産を無制限に買い支える姿勢を打ち出しました。
加えてトランプ政権は財政面からも個人への小切手送付など、大規模なコロナ支援策を打ち出し、財政金融両面から異例の大規模需要追加を行いました。
世界の主要国もこぞってコロナ支援策として、同様に異例の大規模な需要追加策を打ち出しました。日米欧の中銀だけで7兆ドル以上の資産買い入れを行い、世界に大量の流動性を供給しました。
多くの国でコロナ・パンデミックから経済活動が機能不全にある中で、世界に大規模な流動性が供給されたので、その資金は実物経済ではなく、資産や資源に流れ込み、株や債券などの資産価格が高騰した後、原油や鉱物などの資源価格が上がり、穀物相場も上昇、インフレの「火種」が大きく蓄積されてゆきました。
ところが各中銀は、資源価格などの上昇は自らの政策とは関係のない「降ってわいたもの」と見ました。
従って、大規模なコロナ支援策を打ったにもかかわらず、コロナの感染拡大がなかなか収まらずに、長い間世界経済の重しになっていただけに、コロナ支援の名の下に行われた大規模な需要追加策の影響を見落としていました。
しかし今回の世界規模のインフレ高進の根っこには、この大規模な需要追加策があったことは間違いなく、これが世界規模のインフレ高進のベースになっています。
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