リスキリングと「労働移動の円滑化」で賃金は上がるか?
前頁で紹介した記事には、以下の記載もあります。
リスキリングは企業の社員などが市場のニーズに対応できるよう新たなスキルを身につけることを指す。デジタル化や人工知能(AI)の普及で既存の技能が通用しなくなっても、学び直しで得た技術で新たな職を得やすくするセーフティーネットの意味合いもある。
首相が提示した3本柱はリスキリング支援の重点を成長産業への労働移動に置くことを示す。北欧などに比べて遅れている普及をテコ入れする狙いがある。
首相はリスキリングの徹底で「賃上げがより高いスキルの人間をひき付けて企業の生産性が高まり、さらなる賃上げにつながっていく好循環を実現する」と語った。
岸田首相が述べた「労働移動の円滑化」支援から賃金上昇という図式は、「リスキリング ✕ 職能給昇給 = 賃金上昇」ということになっています。
さらに非生産性業務がAIなどに取って代わられることでの新しいスキルを学ぶ人を応援するというのが「失業なき労働移動」としていて、これが「リスキリング」がセーフティーネットになるということなのでしょうかね。
さあ、皆さんはどう読み解いたでしょうか。
リスキリングは大企業のため?まさか外資と“お友だち企業”のため?
「日経リスキリングサミット」参加企業から見える景色は、会計税務が外資系のEY社、人材派遣会社・転職斡旋会社にUdemy・ベネッセコーポレーション&グロービス……出揃いましたね。
決して「リスキリング」を否定するのではありません。安倍政権での「公教育への民間参入」の延長線で捉えると、色眼鏡をかけたくなるだけなのです。
もう1つの側面は、「リスキリング」は、大企業のためにあるように感じてしまうことです。中小企業はどうなるのでしょう。
中小企業にとっても、従業員のスキル向上は願うことです。しかし、そのための教育費用を費用を捻出するのは難しいでしょう。
「リスキリング」に関して、中小企業ならではの補助金制度増設は考えられないでしょうか。
企業側も、従業員がレベルアップすれば転職してしまう、他社に移ってしまうという心配もあるそうです。どこの企業も、とくに中小企業にとっては優秀な人材は確保しておきたいですよね。
通常は、それは給料面や待遇を差別化してつなぎとめるのでしょうが、それができる余裕がどこまであるかは疑問です。
でも、従業員のスキルが上がることは、企業にとってもプラスになるはずです。
効率的に収益が伸びれば、効率化された分を給与に反映させることもできるはずで、そこを目指すという経営での発想転換が必要です。
中小企業にとっては特に“従業員給与はコスト”であるという概念が拭えないところにあるのでしょう。
従業員は“資産”となるには、費用も時間もかかります。
でも効率化を進める、生産性を上げることを考えた事業計画も、企業が長く存続するうえでは必要なことで、それがひいては従業員をつなぎとめることにもつながると思います。
ある意味、「中小企業の淘汰」という側面もあるのでしょう。従業員給与を“コスト”とみなすのか“資産”とみなすのかで、選ばれる企業は明確になってきます。
それができるかどうか、できなければ市場から退場させられるということになってくるのでしょうか、難しいところです。