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「AI革命」の抵抗勢力として日本が輝く日。変化を恐れる国民性に世界が羨望の眼差し=高島康司

慢性的な停滞構造

しかし、このようなグローバリゼーションの抵抗と変化の先送りは、日本を慢性的に停滞させた。

派遣労働を導入しても生産拠点が国内にある以上、コスト高にならざるを得ない。その結果、日本企業は国際競争力を失い、売り上げが減少した。このじり貧状態が原因で、イノベーションと開発投資ができなくなった。すると、売上は一層減少した。日本企業はこの状況に対処するため、賃金を低く抑え、さらに大企業は中小企業に値下げを強要した。

そして、このように出した利益の大半は、内部留保金にして、大企業は積極的な投資を控えた。リスクを恐れての処置だ。すると、イノベーションの投資が行われないので国際競争力はさらに低下した。

一方、さらなる賃下げと中小企業への値下げ強要で経常利益は膨らみ、それに対応して内部留保金も増えるという悪循環に陥った。また、増大した利益で大企業の役員報酬は増えるが、賃金は低下したままだ。

こうした循環が日本の停滞を構造化させた。

グローバリゼーションの先送りの逆説

このように日本企業は、生産拠点の海外移転に抵抗してグローバリゼーションを先送りし、慢性的に停滞した。しかしながら、こうした状況で逆説的だが、残ったものがある。日本企業が築き上げてきた伝統的な企業組織、また社員や顧客、地域社会との強いつながりがそのまま残ったのだ。その結果、古い技術や手法が根本から変革されることなく維持された。ファックスや固定電話など、他の古い技術が依然として使用され環境が温存されたのだ。

さらに、企業だけではなく多くの日本人がIT化とグローバリゼーションに消極的だったため、80年代から90年代までのテクノロジーや町並み、そして懐かしい雰囲気を持つ文化が残った。また、電子決済が十分に普及しておらず、昔ながらの現金決済の商店街が多く存在する。日本では、グローバリゼーション以前にあったローカルな世界の匂いが残っている。

しかし、これは逆説的な作用をもたらした。残った古き良き世界を満喫するために、外国から観光客が押し寄せたのだ。他の先進国では消滅しかかっている人の手触りと温もり、そしてなんとなく懐かしい光景が日本にはある。世界の変化から取り残された水たまりとしての輝きのようなものだ。

ロシアのウクライナ進攻でさらに強化

こうした、いわば世界の安定した水たまりとしての日本の輝きは、ロシアのウクライナ進攻でさらに強化された。ウクライナ戦争後、エネルギーと食料を中心にインフレは過去40年間で最大水準に達しつつある。長年、デフレに苦しんでいる日本でも、すでに3%から4%のインフレが常態化している。

しかし、欧米ではこんな水準のインフレではない。イギリスのインフレ率は常時10%を越えているし、EU諸国でも10%前後で推移している。アメリカは速いペースで金利を引き上げた結果、なんとか6%台のインフレに落ち着いているが、それでも2020年と比較すると、3倍以上高い水準だ。

このような高インフレは、いま欧米諸国を直撃している。極端なエネルギーと食料の高騰で、生活の維持ができなくなる人々が急速に増えている。筆者が先日仕事で知り合ったイギリス人の経営者は、無料食料配給所のフードバンクに若い医師と弁護士、そして看護師が列に並んでいるのを見たという。彼らの会話から、そうした専門職の人々だと分かったそうだ。

ウクライナ戦争後、欧米では生活の厳しさがかつてないほど増している。イギリス、フランス、ドイツのような国々では、連日のように抗議運動が起こっている。「カーネギー・メロン財団」は開設した「世界抗議運動トラッカー」を見ても、抗議運動の多くがヨーロッパの先進国に集中しているのが分かる。

・世界抗議運動トラッカー
https://carnegieendowment.org/publications/interactive/protest-tracker

こうした矛盾を背景に、欧米では国民の間の分断が進みつつある。先程のイギリス人経営者は、社会が今後維持できるのかどうか不安でしなかたがないという。貧困化の加速、国民間の対立の激化、犯罪の増加、そして抗議運動の激化という状態だ。筆者のアメリカ人の友人は。「この国にはもう住みたくない」とまで言っている。

こうした人々がこぞって行きたがる国が日本なのだ。

Next: 日本はいつでも安心できる安定した避難所…AI革命の到来でどうなる?

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