低価格で人気の「第3のビール(新ジャンル)」が、10月1日の酒税改正で値上げされるのを前に、各地で買いだめの動きが本格化しつつあると報じられている。
都内の小売店では、9月1~20日までの第三のビールの販売額が前年同時期比で3割増に上ったといい、「原材料高で値上げされた昨年の駆け込み時期より売り上げは伸びそう」と見込んでいるとのこと。
いっぽうでメーカー側はというと、キリンビールでは「本麒麟(きりん)」を前年同時期に比べ2割増産しているほか、アサヒビールやサントリーは、ケース商品に景品を付けるなどして、まとめ買いを促しているという。
第3のビールの税額は350ml換算で9円19銭引き上げられるとのことで、各メーカーは増税分を出荷価格に上乗せする方針。サントリーの「金麦」の場合、コンビニでの店頭価格は157円程度から166円程度に上がる見通しだという。
2026年にビール類の酒税が一本化へ
第3のビールおよび発泡酒の味わいが、ビールに近づく味わいになっていることから、そのなかで税率の差があるのは不公平……といった建前で引き上げられる、今回の第3のビールの税率アップ。
今回の税率アップによって、第3のビールは発泡酒と同じ税率になるというのだが、さらに3年後の2026年10月にはその発泡酒の税率がアップする予定。いっぽうで、ビールの税率は今回のタイミングを含め段階的に下がっており、2026年10月には発泡酒の税率と同一になる予定だ。
振り返れば、麦芽の比率が当時の酒税法におけるビールの基準より低く、その分税負担が低い発泡酒の商品が多く世に出て、「節税ビール」と呼ばれたのは1990年代半ばのことだが、政府はそれに目ざとく反応し、すかさず発泡酒への課税を強化。
それは、その後に登場した麦・麦芽以外の穀物を原料にしたビール風味の発泡アルコール飲料「第3のビール」に対しても同様で、従来からあるビールと違わない味わいの商品を安価に提供したいと商品開発に注力する各メーカーの企業努力を踏みにじるものだと、かねてから批判は多かったわけだが、そういった約30年に渡る政府とビールメーカーとのいわゆる“いたちごっこ”は、ビール・発泡酒・第3のビールまでひっくるめて税率の一本化という形で、一応の幕を下ろす格好となるようだ。
いっぽう、そうなると今回もふくめてビール自体の税率は下がるということで、その点に関して10月以降に期待……といった反応も一部からはあがっているようなのだが、いっぽうでそれは“ぬか喜び”に終わるのでは、といった見方も。
今回のビール等の増減税、
ビール種の値下げと言ってますが
メーカーさんの値上げも同時に実施されますんで
ちょーーーっとよく見ないとですわ。缶ビール以外(瓶・樽)は1リッター2円6銭の値上げ。
減税分を含めても値上げ。
今回缶ビールだけ値下げ。まぁそうなりますわなぁ….
— 入谷酒店@何屋さんか分からん変な酒屋さん (@iritani_sake) September 25, 2023
美味しそうな生ビール
10月からビール減税になるので
値下げになると思ってたら
業務用の樽や瓶は
容器回収コストも上がってるので
逆に値上げだそうでホント最近は値上げの話しか
ききませんな pic.twitter.com/Clh53QmerE— 焼肉·ホルモン 丸亀 (@marukame492718) September 26, 2023
どうやら瓶ビールや樽入りのビールに関しては、容器回収コストが上がっていることから、同タイミングでのメーカーによる値上げがあるようで、それが減税分を上回るということ。居酒屋などで飲むビールは、むしろ値上げになる可能性もありえるということのようだ。
若者の間で顕著な“ビール離れ”
いっぽうで最近のビール市場といえば、2022年のビール系飲料国内販売数量は前年比2%増の約3億4,000万ケースに。
外食需要が回復し、飲食店向けが伸びたことが増加の原因で、業務用に強いアサヒが3年ぶりにシェア首位をキリンから奪還したのだが、ちなみに販売数量が前年を上回ったのは、なんと18年ぶりのことだったよう。コロナ禍前の19年と比べると実に1割の減少と、市場の縮小が顕著といった状況のようだ。
特に若者層ではすっかりビール離れが進んでしまっているようで、つい最近結果が公表されたとあるアンケートによれば、「居酒屋で1杯目に何を頼むことが多いか」という設問に対し、1位となったのはなんと「レモンサワー」。2位が「そもそも飲まない」で、「生ビール」はようやく3位に入るという結果だったそう。
「上に従ってビールを飲む文化がなくなった」「苦いから苦手」「ビールはおじさんの飲み物だと思っている」というのが、ビールが遠ざけられる主な理由ということだが、高い税率によりそれなりの値段がするビールより、サワーなどのチューハイ類のほうが安価に酔えるといった“コスパの良さ”が、今の若者に受けているというのも、想像に難くないところだ。
実際、小売の現場でもチューハイの市場は、軒並み販売量が落ちているという酒類のなかにあって、数少ない成長カテゴリーとなっているようで、2022年の販売数量は約2億4600万ケースと、この5年間で約32%も増加しているという。
昔は居酒屋でも家庭でも、お酒を飲むといえば“とりえずビール”だったのが、今ではそんな絶対的ポジションからもすっかり凋落してしまった感もあるビール。それだけに今後は、ビール系飲料だけがやたら政府に課税対象として目を付けられるといったこともなくなるかもしれないが、それはそれで一抹の寂しさを感じてしまうところだ。
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