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熊本県内の鉄道・バス事業者、全国交通系ICカードから“離脱”。高すぎるシステム更新費用が原因との説明も地元民の間で取沙汰される“別の思惑”

熊本県内でバスや鉄道を運行する交通5社が、「Suica」など全国交通系ICカード(全10種)による運賃決済を年内にも取りやめると決めたことが、県内のみならず広く話題となっているようだ。

報道によれば、全国交通系ICカードからの離脱は機器更新費がかさむことが主な理由。5社が導入している決済システムは、保守契約が25年3月末で切れ、更新には計約900台あるバスに搭載される機器を入れ替える必要があるが、これには全体で計12億1,000万円が必要になるということ。

いっぽうで、近年普及が進み、安価な読み取り用の機器で対応できるクレジットカードのタッチ決済やスマートフォンによるQRコード決済を導入だと、経費は6億7,000万円に抑えられるとのこと。5社は早ければ年内に全国交通系ICカードの利用を停止し、25年4月から新方式に移行する予定だという。

導入・更新コストの高さがネックな交通系ICカード

全国交通系ICカードの全国相互利用サービスが始まったのは2013年3月のこと。それ以降、いわゆる地方の私鉄やバス会社においては、その決済システムの導入がぽつりぽつりと進んでいるといった状況。

しかし今回の熊本の件では逆に、いったん導入しながらも離脱するという動きに。ちなみにこのようなケースは、全国初のことだという。

地方で交通系ICカードの導入が一気に進まなかった、あるいは今回の熊本のような事態が起きた理由としてあげられるのが、ひとえにその導入や更新にかかるコストの高さ。

そのことに関連して、以前ちょっとした騒動となっていたのが、昨年オープンした北海道日本ハムファイターズの本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」へのアクセス手段となっていたシャトルバスを巡る話だ。

このバスでは当初、クレカのタッチ決済こそ導入されていたものの、交通系ICカードは一切使えず。ところが、日本国内におけるクレカのタッチ決済の利用率は、まだまだ低いということもあって、利用者の間からは「不便だ」という声が多くあがることとなった。

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これは、シャトルバスを交通系ICカードに対応させようとしたところ、億単位のコストがかかることが判明したため、導入を躊躇してしまったことで起きてしまった事態だったようなのだが、そういった客からの要望の高まり、さらにJR西日本が開発した「簡易型IC端末」の使用で、当初の見積もりの3分の1程度で導入可能であることが分かったため、開場から4か月後にして、ようやく交通系ICカードへの対応を果たしたという。

すると導入直後の段階で、シャトルバス利用者のなかでの交通系ICカードの利用率は早々に6~7割に達したということで、交通系ICカードがいかに浸透しているかが如実に現れる結果となったというのだ。

交通系ICは廃止も“くまモン”は残る背景

今回の熊本のバス会社5社が、全国交通系ICカードの決済システムを導入したのは2016年ということ。それからすでに9年ほど経ち、熊本の人々の間でもかなり浸透しているであろう全国交通系ICカードを廃して、クレカのタッチ決済等に移行するというのは、いくら導入コストが抑えられるとはいえ、利用者側にとってはかなり不便に感じることとなるのでは……と心配になってくるところ。

それでも今回の決定に踏み切った背景として、地元民の間で取沙汰されているのが、熊本県内の鉄道・バス事業者各社で導入されている非接触型ICカード乗車券「くまモンのIC CARD」の存在だ。

全国交通系ICカードの対応終了後も、引き続き利用できるという同カードは、2015年より発売が開始され、地元民の間では利用者も多いということなのだが、今年7月からはその運営会社が、熊本県内で圧倒的シェアを誇る地銀である肥後銀行に移る予定。

その肥後銀行なのだが、「くまモンのIC CARD」をこれまでの公共交通のみでの利用だけでなく、街でのショッピングなどより広範な決済に対応すべく「くまモン!Pay」という新たなキャッシュレス決済アプリの開発を進めており、2025年春のサービス開始を予定しているという。

このような状況をよく知る地元民の間では、今回の全国交通系ICカードからの離脱が、そういった動きとはどうやら無縁ではないと見ているよう。つまりは「くまモンのIC CARD」や「くまモン!Pay」の利用者を増やしたいという肥後銀行の思惑に沿う形で、地元の交通事業者各社が、競合となりそうな全国交通系ICカードの利用シーンを減らす方向に動いたのでは……そんな話も大いに取沙汰されている状況のようである。

Next: 「これから地方はどんどんSUICA使えなくなっていくんだろうなぁ」

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