競馬場の調整ルーム居室内にスマホを持ち込み、通信を行うという不適切使用で騎乗停止処分となっていた永野猛蔵騎手が、自ら引退したと報じられたことが、競馬ファンの間で大きな波紋を呼んでいる。
報道によれば、永野騎手は23年5月から24年10月にかけて、1台目のスマホのみをロッカーに預ける偽装工作を行ったうえで、2台目を持ち込み、複数の外部の者と通信や通話を行っていたとのこと。また、骨折休養中に親族に対して予想行為を行っていたこともわかり、JRAの裁定委員会で12か月間の騎乗停止処分が決定。それを受けて、本人が騎手免許の取り消しを届け出たという。
永野騎手は21年にデビュー。4年目の今年はすでに28勝と、キャリアハイを更新するペースで勝ち星を積み上げていた若手のホープだった。
若手騎手らのスマホ依存は深刻?
酒気帯び運転で検挙され騎乗停止処分となっている松若風馬騎手にくわえ、函館競馬場の芝コースを車で走行し、損傷させた角田大河騎手の件など、このところ騎手による不祥事が続いている日本中央競馬会(JRA)。
すみません、もう騎手写真探すの疲れました。
— 日刊ゲンダイ 競馬 (@gendai_keiba) November 13, 2024
競馬情報も充実している夕刊紙『日刊ゲンダイ』も、SNS上で「もう騎手写真探すの疲れました」とこぼしてしまうぐらいほどの状況なのだが、なかでも昨年あたりから各地で相次いでいるのが、主に若手の騎手らによる競馬場内調整ルームなどへのスマホの持ち込み事案だ。
なかでも人気の女性ジョッキーだった藤田菜七子元騎手が、調整ルームにスマホを持ち込んだうえで他者との通信を行い、また聞き取り調査への虚偽申告も行っていたことが発覚し、裁定委員会による処分を待たずに引退を発表したことは、競馬ファンの間で大きな衝撃が走った。
八百長行為を防止するなど理由で、競馬騎手のみならず公営ギャンブルの選手はレース期間中、スマホなど外部との連絡が可能な通信機器の類を開催場などに預け、決して使用しないというのはいわば常識。
しかし、そんな鉄則中の鉄則がことごとく破られ、それによって将来ある騎手が業界を去るといった事態が相次いでいることに対して、競馬ファンの間からはその意識の低さに呆れる反応があがるとともに「若者のスマホ依存はこれほどにも深刻なのか……」といった声も、多くあがっているところ。
また、これらのスマホ持ち込み事案において、多くの騎手が連絡を取っていた相手というのが、いわゆる厩舎関係者。しかしながら、その処分がことごとく騎手に対してのみで、厩舎関係者に対してはお咎めなしといったケースがほとんどということで、片手落ちではないかといった声も続出中。これでは、この手の不祥事の根絶は難しいのではないかといった見方も、ファンの間で広がっているようだ。
JRAの事業収益は4年連続の3兆円超えも…
このように騎手による数々の不祥事はもとより、厩舎関係者はお咎めなしといった処分の不均衡ぶりに、怒り呆れるといった競馬ファンが続出している状況なのだが、その背景にはここ近年の売上好調もあるのでは……といった見方も出ているところ。
このところの中央競馬といえば、2023年度(23年1~12月)の発売金は3兆2,869億7,589万4,800円(対前年比100.5%)、また売得金も3兆2,754億6,790万700円(対前年比100.7%)と、ともに12年連続で前年超え。また事業収益のほうも、今年3月発表の決算によれば3兆3,166億3,253万7,031円と、4年連続の3兆円超えとなった。
本場や場外馬券売場などに行かずとも馬券が購入できるネット投票が、ファンの間で普及・定着したところに、コロナ禍による巣ごもり需要が加わったこと、さらには『ウマ娘』人気によりビギナーファンが大いに増えたことが、近年の好況ぶりの原因であるというのが定説なのだが、この人気ぶりに騎手はもとより業界全体がすっかり慢心しているのでは……というのだ。
そんななかで直近の売上はというと、今年6月23日までの今年度上半期上は1兆6,596億4,509万400円(前年比100.8%)、また開催競馬場の入場人員は265万7,633人(前年比120.4%)と、売上は微増ながらも集客面では依然として好調が続く。
しかしながら、本来ならばより注目を集めるはずであろうG1レースの売上は、今年上半期では前年比3.6%減。この傾向は秋のG1戦線でも変わらず、秋華賞の売上が158億5887万5900円と昨年より約31億円の大幅減となったほか、菊花賞・天皇賞(秋)・エリザベス女王杯も軒並み前年割れの売上に。このような事態を、相次ぐ不祥事に呆れかえったファンからの“アンサー”であると捉える声も、少なからずあがっているといった状況のようだ。
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