主観的確率関数のゆがみが市場価格に与える大きな影響
市場参加者の主観的確率関数のゆがみは、市場価格にも大きな影響をもたらします。
たとえば、価格変動率(ボラティリティ)の予想を売買するオプション(※1)という金融商品があります。
このオプション市場では、金融危機後などの特定の時期を除くと、極端な価格変動が生じる可能性が少し低めに見積もられがちになっていると考えられています。まさに図17Bの破線の状態ですね。
そうだとすれば、極端な値動きが生じたときに利益が生まれるようなオプション(※2)の市場価格は、客観的な確率(※3)で計算された適正価格よりも安くなっていることになり、これを買うことでプラスの期待リターンを得ることが出来ます。
※1:オプションとは、ある原資産を、事前に決められた価格(行使価格)で買う権利(コール)、または売る権利(プット)を売買するものです。原資産の予想価格変動率(ボラティリティ)が高ければオプションの価格も高くなるので、将来のボラティリティの予想を取引する市場と位置付けられています。
※2:ディープ(またはファー)・アウト・オブ・ザ・マネーと呼ばれるものです。
※3:客観的な確率は知ることが出来ないわけですが、主観的確率関数が図17Bの破線のようになっているとしたら、客観的な確率が市場価格に織り込まれている確率(=市場参加者たちの主観的確率)よりも高いということだけは分かります。
結局のところ、主観的確率曲線は、金融危機後は実線のようになるけど、平穏な時期には破線のようになっていて、そのサイクルを繰り返していると考えられるのです。
以上プロスペクト理論の概要を見てきましたが、これは投資理論にどのような含意を持つのでしょうか。それは、以下3つの点にまとめられます。
- リスクプレミアムの発生
- リスク選好度の循環的な遷移
- 利益と損失に対する非対称の反応
このどれもが、とても重要な意味を持っています。次回は、この3つの点について、詳しくみていきたいと思います。
(この回終わり)
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『田渕直也のトレードの科学 Vol.017』より抜粋