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「トランプ列車」の大脱線、またはポピュリズムへの歯止め(前編)=佐藤健志

記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年8月10日号より
※本記事の本文見出しはMONEY VOICE編集部によるものです

【関連】中国を敵に回さないアメリカ=佐藤健志

ポピュリスト的リーダーの「四段論法」と自滅的な暴走

前回記事「ドナルド・トランプのファンタジー、または民意をめぐるパラドックス」でも述べましたが、世の中を上手に治め、人々が豊かで幸福に暮らせるようにすることこそ、あらゆる政治の目的です。

つまりは経世済民の達成。
豊かで幸福に暮らすなんてイヤだという人もいないでしょうから、これは民意を満たすことでもある。

ところが民意自体は、しばしば一貫性や整合性に欠けます。
要するにツジツマが合っていないのです。
ゆえに民意に従うだけでは、世の中を上手に治め、人々が豊かで幸福に暮らせるようにすることはできません。

上記のパラドックスにどう対処するか?
この点こそ、あらゆる政治家(とくに民主主義社会における政治家)の背負う課題であり、腕の見せどころです。
しかるに中には「強力なリーダーシップさえあれば、民意にひたすら従いつつ、経世済民が達成できるはずだ!」と構える者が出てくる。

当の人物は、民衆にたいして
「自分には強力なリーダーシップがあるから、権力を与えてくれさえすれば、君たちの夢や希望をどこまでも叶えよう!」
と説きます。

そんなうますぎる話、あるわけないだろう!!
・・・という良識が民衆の側にあれば問題はありません。

しかし世の中の状況が悪いと、うますぎる話につい乗りたくなる人が増える。
かくして経世済民をめぐるパラドックスを直視しようとしない人物が、「カリスマ的なリーダー」として人気を博しやすくなる次第。
ポピュリズムの台頭です。

すなわちポピュリズムとは、
1)民意は絶対だという前提のもと、
2)民意を体現すると目された(ないし、そう称する)人物が
3)政治権力を握ること
と規定できます。

ところが、お立ち会い。
ひとつここで、民意は本当に絶対だと仮定しましょう。
ついでに、ある特定の人物が、民意を本当に体現しているとも仮定しましょう。
すると、どういうことになるか?

「民意=絶対」にして
「ある特定の人物=民意」ですから
「ある特定の人物=絶対」となるのです!

ポピュリスト的なリーダーが、自己絶対化に陥りやすいうえ、支持者がそれを容認する傾向を見せてしまうのも、こう考えれば当然の話。

ところが、さらにお立ち会い。
ポピュリスト的リーダーが、本当に絶対だと仮定しましょう。
くだんのリーダーは、自分にたいする批判など聞き入れなくても構わないはず。
よしんば、それが民意であったとしても、です。
自分こそ絶対なんですから。

すなわちポピュリスト的リーダーの頭の中では、以下の四段論法が成立してしまう。
1)民意は絶対だ。
2)オレは民意だ。
3)だからオレは絶対だ。
4)したがって、気にくわない民意は否定してよい。

この四段論法が、『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』で論じた「キッチュ」の構造と瓜二つなのは、むろん偶然ではありません。
http://www.amazon.co.jp//dp/4198640637/(紙版)
https://www.amazon.co.jp/dp/B01G59KWMU(電子版)

とはいえこうなると、自滅的な暴走が始まるのは避けられない。
民意を絶対視するところからスタートしたにもかかわらず、民意の否定にいたるわけですからね。

だからこそポピュリズムは危ないのですが・・・
歯止めをかけるにはどうすればいいか?

ここで注目したいのが、例のアメリカ大統領候補、ドナルド・トランプをめぐる最近の経緯。
ご存知のとおり、トランプはポピュリズム的な色彩の非常に強い人物です。

Next: なぜトランプは「列車でいえば大脱線」と評される状態に陥ったのか?

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