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狂気か?打算か?「トランプ外交」が世界に突きつける2つのシナリオ=高島康司

シナリオ2

「米国は中国の勢力圏拡大を抑え、覇権と一極支配を維持する」

一方、地政学のもっとも信頼できる分析者のひとりとされている、F・ウィリアム・エングドールはまったく正反対の見方をしている。

エングドールはロシア・ツデーやスプートニク、さらにニューイースタンアウトルックをはじめとしたロシア系メディアに寄稿している。さらに、地政学のベストセラー作家でもある。一時期、プリンストン大学でも教鞭をとっていた。エングドールの見方はこうだ。

トランプ政権がロシアとの関係改善に積極的なので、アメリカは覇権を実質的に放棄し、多極型の国際秩序を正式に容認したとの見方が多い。しかしこれはトランプ政権の実態を見誤っている。

トランプ政権の外交政策は、オバマ政権の反省に基づいている。2014年3月のクリミアの併合以降、アメリカはロシアの経済制裁を主導し、ロシアとの対立は厳しくなった。またロシアは、シリアのアサド政権を支援したので、両者の対立は深刻なレベルに達した。

このようなロシアと対立する政策は、基本的に失敗した。経済制裁は、ロシアを中国やイランと一層接近させ、中国の主導するアジア・インフラ投資銀行(AIIB)によるユーラシア全域のインフラ建設を活性化させている。

このまま行くと、かねてからロシアが主導する「ユーラシア経済同盟」と中国の「一帯一路」は一体化し、極東から中国、さらに中東とヨーロッパを含む巨大なユーラシア経済圏が誕生することになる。これが誕生すると、アメリカの覇権は決定的に凋落することだろう。これを主導しているのは、中国の勢力圏拡大の動きである。

トランプ政権は、このような動きに歯止めをかけ、アメリカの覇権を取り戻すことを外交政策の基本的な狙いとしている。ロシアとの関係改善はこの狙いを実現するための一環なのだ。トランプ政権はロシアとの関係を強化することによって中国から引き離し、中国とイランを孤立させる。そしてこれらの国々に厳しく対応し、勢力拡大の勢いを徹底して削ぐ計画だ。

もちろん、プーチンがこの動きに乗るかどうかは分からない。ロシアの、中国とイランとの戦略的な関係はことのほか深く、この関係を分断するアメリカの動きにはロシアは徹底して抵抗するだろう。うまく行くかどうかは分からない。

しかし、トランプ政権の親ロシア政策は覇権の放棄と多極化容認どころか、アメリカの覇権を再構築する狙いがあることは明白である――

これが著名な地政学者、エングドールの見方だ。トランプ政権の外交政策の結果、多極化容認とアメリカの覇権の失墜を予測するセイカーやココ・エスコバルなどの論客と、鋭い論争が続いている。

Next: 日本も否応なく巻き込まれる、エングドール「覇権再構築論」の根拠

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