実態は「マニュアル検査を通るための書類不備」がほとんど
公共事業における検査は、通常何回かに分けて実施される。杭打ち工事は工期の最初に行われるものであるから、最初の検査の段階でチェックを受けているはず。
問題は、この検査の時点でデータの改ざん・流用が見落とされていること。それはいまの検査が、「専門的知見」を持たない検査官たちによる、必要な書類が揃っているかをチェックするだけの「マニュアル検査」になっているからだ。
杭打ちなどは施工後に正しく施工されているかを確認することは、技術的にも物理的にもほぼ不可能なこと。それゆえ「再調査」は「マニュアル検査」に提出された施工データの再検査にならざるを得ない。
その結果、施工の品質とは無関係に行われたデータの改ざん・流用が大量に見つかることになる。そしてそれは、住民や発注者に対して不安感を与え、業界不信へと繋がっていく。
本当に正しく施工しているか確認するためには、現場に立ち会う以外にない。しかし、それは現実的ではない。私も30年前に元請会社の技術者として杭打ち工事を担当した経験があるが、1日中つきっきりで立ち会うのは無理なことで、下請け会社の責任者に任せる以外にない。
データ再調査は、全員を不幸にする「パンドラの箱」だ
データ改ざん・流用があったとしても、そのことが即施工品質に問題があることには繋がらないという現実をまず認識することが重要だ。
実際に建物や構造物に不当沈下が生じていなければ、杭打ちに問題があったと決め付けずに、「マニュアル検査」を通るための書類に不備があったと考えるのが現実的。
この件で建物等の資産価値が低下することは避けられないが、それはお金等で解決する以外に方法はないのではないだろうか。「疑わしくば解体・立て直し」を迫られるのでは、施工を請け負う会社がなくなってしまいかねない。
杭打ち工事のデータの再調査は、パンドラの箱を開けてしまう行為となった。これによる混乱を拡大させないためには、施工会社のモラルや体制を非難するだけではなく、施工品質と施工データは別物であるという現実的な認識を持つことが重要だ。施工データは主に「マニュアル検査」を通るためのものなのだから。
エアコンの効いたオフィスで仕事をしている方々が、様々な自然現象のなかで行われている工事現場に関して、自分たちと同じ環境で工事が進められていると思い込むことは、本質的ではない問題の拡散にも繋がりかねない。
データの改ざん・流用はないに越したことはないが、「マニュアル検査」がある以上、現実的になくなることはない。今回の問題は、その部分を割引いて議論するべきである。そうでなければ収拾がつかなくなるだけだ。
『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2015年10月30日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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