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お涙頂戴はなぜ悪いか?安保問題と「聖羅ちゃん」のパラドックス=佐藤健志

「聖羅ちゃんツイート」に納得する人は思考停止している

何というか、呆れるほかはない顛末ですが…この「聖羅ちゃんツイート」、よく読むといろいろ見えてくるものがあるんですね。

まずはツジツマ。私の感覚で言うと、孫が死んだことを「還らぬ人になってしまいました」と表現すること自体、どこか不自然なものがあります。後半、「何度も」がやたらに繰り返されるくだりも、人工的というか嘘くさい。

が、これらは主観の問題として脇に置きましょう。もっと決定的に破綻している箇所があるからです。つまり最終行。

聖羅は何度も何度も帰りたい、と母に泣いてたそうです

それは可哀想にと言いたいところながら、おばあちゃん、この話を誰から聞いたのでしょう?おばあちゃん自身はデモに行っていないんですよ。

嫁、つまり聖羅ちゃんの母が話すとも信じがたい。息子、つまり聖羅ちゃんの父がデモに同行していたとすれば、自分で娘を連れて帰るべきでしょう。でなければ息子にも責任があることになり、嫁だけを非難する態度に筋が通らなくなります。

「わたしたちは何度も聖羅を置いてくように話した」とある以上、夫、つまり聖羅ちゃんの祖父も家に残ったはず。残るは「嫁のデモ仲間」ですが、「あの嫁はゆるせません」と激怒している祖母に、そんなことをわざわざ話すと思いますか?

ちょっと冷静に考えてみれば、ツイートの内容がおかしいことは、裏を取るまでもなく明らかなのです。逆に言うと、このツイートを読んで納得してしまった人は、気づかないうちに思考が止まっていることになる。

思考はなぜ止まったのか?お分かりですね。「純真な子供が、本当は嫌がっているのに、大人の都合でデモに連れて行かれて死んだ」というイメージに共鳴してしまうためです。そんな理不尽な!と思ってしまうわけですよ。

安保法制の良し悪しと全く関係がない「お涙頂戴」話

しかしお立ち会い。理不尽はいいとして、それは安保法制の良し悪し、ないし必要性(の有無)について、何か証拠立てているのか?答えはもちろん、ノーです。

そしてこれこそ、くだんのツイート最大の問題。安保法制に賛成なら、ハッキリそう言えばいいではありませんか。法制に反対する人々のイメージを(作り話で!)貶めることにより、間接的に肯定しようとするなど、姑息もいいところです。

ちなみに「姑息」は、「姑(しゅうとめ)の息」と書きますが、このツイートが「嫁を許せないと思っている姑の独白」となっているのも、こうなると良くできた話。「息巻く姑」のふりをしてツイートしていれば、内容が姑息になるのも当たり前なのですよ。

のみならず、この作り話を貫いているのは、純然たるお涙頂戴の発想。理屈はどうでもいいから、感傷に酔ってくれという書き方です。裏を返せば、「何も考えずに安保法制に賛成しろ」というのが、ツイート主のホンネ。まあ、自覚はしていないと思いますが。

しかるに「何も考えずに安保法制に賛成しろ」と主張して良いなら、「何も考えずに安保法制に反対しろ」と主張されても文句は言えないはず。やっていることは同じなんですから。

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