繰り下げ受給は得なのか?
仮に、現在65歳の人が10万円を受け取ることができるとする。ここで、繰り上げ請求して、60歳で受け取るようにすると、30.0%減額される。
一方、繰り下げ請求して、70歳から受け取ると42.0%増額される。前項の記事の見出しに、「年金『繰り下げ受給』は本当に得か?ポイントは健康寿命」とあるのは、このことの損得についての考察だ。
ところで、金利7%はマジックナンバーと呼ばれているのをご存知だろうか?
元本を年7%複利で回すと、ほぼ2倍となるからだ。確認してみよう。
7万円×1.07=7万4900円
7万4900円×1.07=8万0143円
8万0143円×1.07=8万5753円
8万5753円×1.07=9万1756円
9万1756円×1.07=9万8179円
9万8179円×1.07=10万5052円
10万5052円×1.07=11万2406円
11万2406円×1.07=12万0274円
12万0274円×1.07=12万8693円
12万8693円×1.07=13万7702円
13万7702円×1.07=14万7341円
確かに、約2倍(7万円×(1.07の10乗)=14万7340円)となる。
65歳で10万円受け取ることが決まっている人が、繰り上げ請求して60歳で受け取ると、30.0%減額され7万円となる。
一方、繰り下げ請求して70歳から受け取ると、42.0%増額されて14万2000円になる。
このことは、資金を7%で運用することが前提となっていることを意味する。
「年金『繰り下げ受給』は本当に得か?」は、こうしたことを勘案してみてもいい。労力をかけずに7%以上で運用できる人は、寿命や健康寿命を考えなくても、損なのだ(自分で運用しても、年金行政を信じてもリスクはある)。
年金行政の計算は机上の空論だ
私が、日本の年金行政は机上の空論にすがっているのではないかと疑う根拠の1つが、この7%という運用金利だ。
運用金利にはリスクフリーと呼ばれるものがある。自国の短期国債の金利だ。
財務省のデータでは、6月10日時点の1年国債の利回りは-0.18%となっている。これで、7万円の資金を10年間運用してみよう。7万円に0.9982を10回掛けてみると、6万8750円となる。
年金は長期資金なので、より利回りの高い10年国債のー0.12%ではどうか?6万9165万円になる。ただし、債券の場合は必ず100%(この場合は7万円)で償還されるので、マイナス利回りになるのは、7万円以上で購入することを意味する。
また、年金資金を侵食するのは国債のマイナス利回りだけではない。資金を受け取る時にインフレになっていれば、実質受け取り額が減少する。そこで、我々が消費する際の物価の上昇率も見てみる。
直近の数値、4月の全国消費者物価指数は前年比+0.9%だった。生鮮食料品を除くコア指数も+0.9%だった。インフレ率がプラスだと、将来の貨幣価値が下がるので、0.991を掛けてみる。
7万円が6万3949円となる。
つまり、短期国債の運用で1250円やられ、インフレで6051円なくすことになる。日銀の狙い通りにインフレ率が2%になったらなどとは触れない。現時点の現実の数値がこれだ。
このことは、現実の数値では7万円が10年後には実質6万2699円になってしまうものを、7万円を受け取らずに運用して貰うと、10年後には名目だが14万2000円になると、年金当局は約束しているのだ。
主要国のリスクフリー金利で、最も高い米国ですら(6月10日時点の1年国債の利回りが)2.03%の時代に、利回り7%で運用してみせるとどうか。
「老後資産に2000万円が必要」というのは、利回り7%で計算しても、2000万円足りないと言っているに等しい。私がどのコメントも読む気がしない理由はそこだ。