思考実験──片づけるべき用事とは
『ジョブ理論』によれば、以下の問いに答えることで用事をより具体化できるようになる、としています。
1.その人がなし遂げようとしている進歩は何か。求めている進歩の機能的、社会的、感情的側面はどのようなものか。
2.苦心している状況は何か。誰がいつどこで何をしているときか。
3.進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か。
4.不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか。ジョブを完全には片づけてくれない商品やサービスに頼っていないか。複数の商品を継ぎはぎして一時しのぎの解決策をつくっていないか。
5.その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か、また、その解決策のために引き換えにしてもいいと思うものは何か。
出典:『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(第2章 プロダクトではなく、プログレス)
用事の特定
イノベーションを起こすための最初のステップは、ある状況下で顧客がなし遂げようとしている進歩を特定することです。そして、その進歩には機能的、感情的、社会的側面があり、どれが重視されるかは文脈によって異なってきます。また、用事を特定することにより、真の競合相手もみえてきます。では、同社の場合はどうなるのでしょうか。
今回は、同社が課題としてあげる「成長分野への対応」を取り上げます。同社はそれを、次のように認識しています。
最新のICT(情報通信技術)分野では、AIや機械学習の本格導入が始まり、関連市場が成長期に移行しつつあると考えております。当社がHPC事業にて推進している計算科学分野でも、AI技術を活用した研究開発活動がさまざまな課題解決に向けて広がりを見せるとともに活発化しています。また、5Gサービスの開始により多くの産業分野や社会基盤に関わるところで本格的なIoTの実現と成長が見込まれており、エッジコンピューティングと親和性の高いCTO事業の拡大が見込まれています。
このように当社は、最先端のコンピューティング技術を活用したサービス展開を追求しています。そのために、AI、エッジコンピューティングといった最先端のコンピューティングにまつわる技術を関連技術とともに常に捕捉し、新しい技術を研究・獲得し、社内共有することで新たなサービスの開発へと結び付けていく必要があります。
最近ではCTO事業の顧客企業の製造現場においても、AI、特にディープラーニングといった従来であればHPC事業に属するニーズも出てきております。つまり、AI、ディープラーニングやエッジコンピューティングといった最先端のコンピューティング技術においては、当社の両事業の垣根を越えた体制が必要となる可能性が考えられますので、当社では、まず両事業の技術部門のコミュニケーションの強化を図る方針であります。既にCTO事業の産業用コンピュータの開発段階において、HPC事業のAI等に関する先端技術情報を共有し、産業用コンピュータの開発段階に組込むことでCTO事業の顧客企業の製造現場のニーズに応えております。このように先端技術情報の共有を図り、成長分野における新しい商機への対応を図ってまいります。
上記で着目したいのが「既にCTO事業の産業用コンピュータの開発段階において、HPC事業のAI等に関する先端技術情報を共有し、産業用コンピュータの開発段階に組込むことでCTO事業の顧客企業の製造現場のニーズに応えております」という点です。具体的には、調理ロボの頭脳です。なぜなら、調理ロボには、調理するだけでなく臨機応変な顧客対応が求められることがあるからです。
こういった状況で顧客──飲食店やホテルなど──がなし遂げようとする進歩の機能的側面は「食品を料理する」ということ。意思決定者であれば、感情的側面として「品質」「バラエティ」に加えて「感覚訴求」「娯楽」を、社会的側面として「人手不足」といったことを重視するでしょう。
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